【南あわじ市:3年間の軌跡】(1)自治体直営の学童保育をアフタースクールへ モデル校第一号の現場から
放課後NPOアフタースクールは2019年より兵庫県南あわじ市の放課後事業支援を行なってまいりました。地域の皆様とあゆみを重ねながら4年目を迎えた現在、南あわじ市の放課後の変化を現地の方々と実感することが増えてきました。今回、四国エリアで活動されているライターの中村明美さんにご協力いただき、南あわじ市の放課後を取材。全6本の記事をご寄稿いただきました。南あわじ市の放課後に起きたことをぜひ多くの方にご覧いただき、放課後の時間が持つ様々な可能性を感じ取っていただけたら幸いです。
1:自治体直営の学童保育をアフタースクールへ !モデル校第1号の現場から ←今ここ
2:「「放課後が、楽しい!」子どもと保護者の思い
3:「スタッフが、前よりも自分らしくなった」モデル校第2号、広田スタッフ
4:「自分も、子どもも、どう楽しむか」市民先生の思い
5:子どもたちが行きたい、楽しいと思える放課後にしたい。市役所職員の思い
6:スペシャル対談 南あわじ市、学ぶ楽しさ日本一!」守本市長×放課後NPOアフタースクール平岩代表(上・下)
淡路島の最南端、南に鳴門海峡、西に白砂青松の慶野松原、中心には温暖で肥沃な三原平野が広がります。広い平野で育てる淡路島玉ねぎはもちろん有名ですが、鳴門海峡のタイ、沼島のハモや一本釣りのアジなど種類豊かな魚は、京阪神から東京・築地の魚市場に高級魚として出荷されています。
恵まれた自然環境の中で「学ぶ楽しさ日本一」を目指す南あわじ市は2019年度から、放課後NPOアフタースクールとの協働を開始しています。市内の小学校は全15校。順次、アフタースクール実施校を拡大する方針だそうです。
今回、1つのモデル校から開始し、現場のスタッフや子どもたちの変化、行政側の思いを個人個人にお伺いしました。八木小学校から導入を始め、広田小学校、湊小学校が続く予定の4年目の今年。学校の放課後が変化してきた様子をぜひ体感してみてください。
1:自治体直営の学童保育をアフタースクールへ
モデル校第一号の現場から
白い壁の3階建ての八木小学校は、1階から3階までを突き抜ける赤い煉瓦壁がアクセントになっている可愛らしい校舎です。赤煉瓦の壁の一番上には、大時計。グランドで元気に遊ぶ子どもたちを見守っています。「あかるく・たのしく・たくましく」の校訓の元、約180人の子どもが学んでいます。
その八木小学校が南あわじ市アフタースクール事業のモデル校になったのは2019年度から。アフタースクールは、放課後の学校で学年に関係なく子どもたちが様々な体験ができる時間。同校では2019年以前は、学童保育と、放課後子ども教室が別々に運営されていました。学童は、保護者の就労などを理由に子どもが放課後を過ごす場所。一方の放課後子ども教室は、全校子どもが対象の放課後の子どもの居場所づくりが目的の事業。学童支援員さんなどそれぞれの運営を担っていた皆さんにとっては、2事業をいっぺんにやるようなことだったので、最初は戸惑いもあったそう。
当時、学童の子どもは約40人でした。そこから、アフタースクールに移行後、利用者は67人にまで増えているとのこと。学童では諸事情で一定の欠席者数がいるのが当たり前ですが、アフタースクール八木では、67人全員が出席する日もあるとのこと。「アフタースクールに行きたい!」と子ども自ら保護者に頼み、年度途中から通い始める子もいるのだそうです。
子どもにとっては素晴らしい環境のよう。とは言え、現場スタッフの皆さんは、どんなふうに初年度を舵取りしたのでしょうか?今回は、当初から立ち上げ、運営、プログラムに関わってこられたスタッフの赤松元子さん、榎本幸代さんと、ダンスのプログラムを担うまちの先生、小野裕子(YU-KO)さんからお話を伺いました。
(左から)まちの先生:小野裕子(YU-KO)さん、スタッフ:赤松元子さん、榎本幸代さん
「最初は、『すごい楽しいこと始めたんやなぁ』とワクワクしていました。1年目は、自由すぎて、あたふたして、こっちも必死やったね。2年目からは、ミーティングでよく話し合っていて、スタッフにも一体感みたいなのが生まれたと思います」と赤松さん。約6年間、連続して八木小学校の学童、アフタースクールに関わっています。
隣でうんうん、とうなずくのは、学童支援員になって14年目の大ベテラン、榎本幸代さんです。「大変だったけど、子どもたちから『楽しい!』っていう声が聞こえてきた時には、アフタースクールの意味って、そこなんだな、と分かってきた」と話します。榎本さんは、八木小でアフタースクールの立ち上げから3年間、勤務後、現在は他の学校での新しいアフタースクール開設準備に関わっています。
さて、学童・放課後子ども教室の並立時代とアフタースクールになってからの3年半は、何が違ったのでしょう?
「学童は『安全安心』がメイン。読書、宿題など座ってする学習・活動が多かったよね。支援員主体やったけど、アフターは子ども主体に変わりました」(赤松さん)
「以前は、活動は一斉にやっていたから本人の希望と違う活動もあったでしょうね。けど、アフターでは、子どもたちは自分の好きなこと、やりたいことを好奇心で選んで、やっていく。子どもたちが楽しんで、成長していくのがいいなぁって思います」(榎本さん)
大変だったのは、「おやつの時間」だったそうです。学童時代は、おやつ担当のお当番さんもいて、決まった時間に子どもが一斉に食べる定番スタイル。ですが、市役所側の希望で、おやつの時間を午後3時半〜4時半までの間に幅を持たせ、子どもが自分のタイミングで食べられるようにしたのだとか。赤松さんは、「一斉のおやつをやめましょうとなった時に、驚いたよね。いつ食べてもいいってどういうこと?って」と率直に当時の驚きを表現します。「1時間ぐらい(スタッフ1人)おやつの時間だったよね。それも大変だったね」(榎本さん)
「そうね。安全面では、気配りが必要になったよね。レゴで遊んでいる分には危険も少ないけど、本人のやりたい気持ちを大事にして体育館でサッカーすることになった場合なんかは、怪我もより注意することが増えるしね」(榎本さん)
「基本は、安心安全やからね。その上で楽しいことをしていると言うこと。それは、学童でもアフターでも、子ども教室でも同じかな」(赤松さん)
実は、スタッフの皆さんたちがつくってきた環境の中で、3年間で大きな変化を遂げた子どもたちも少なくないようです。赤松さんは、「学童から、アフターに変わって、みんな楽しんで来るようになりましたね。アフターになってから、出席率もいい。1人も休んでない日もあって、よっぽど、楽しいんやなぁって思う」と笑顔で話します。夏休みだけの予定だった1年生の子どもが「楽しいから、入りたい!」と言っているそう。「『楽しくて入りたい』と言われると、こっちも仕事のやりがいがあるよね」と本当に嬉しそうに話してくださいました。
「子どもたちが親の就労のために来ていたのが、アフターになってから、『自分が選んでやってくる場所』『楽しいことができる場所』に変わった。まちの先生たちのおかげ」と、榎本さん。
そう、まちの先生によるプログラムも、子どもたちの「放課後って楽しい!」という思いの大きな鍵です。「プログラムごとに、新しい子どもの姿の発見がありますね。好きなプログラムの時は、部屋におる時の姿と全然違ったりして。動画制作のプログラムも、一生懸命やっている子がおるよね」。赤松さんは「ダンスの日はみんな機嫌がええ。ストレス解放して、木曜日は、全然ちゃう」と続けます。
そうそう、特集第二回目でご本人さんたちを紹介しますが、今、特にダンスのプログラムを好んで受けている6年生の女子たちも、大きく変化したそうです。
「学童からアフターに変わったのは、あの子達が3年生の時。最初、学童はいややと思ってたと思います。でも、今はスタッフの一員みたいに、子ども同士の問題も、間に入って解決してくれるんですよ。ここでYU-KOさんのダンスに出会って、それをきっかけに、アフタースクールにきたら、こんな楽しいことがあるんやと変わったんではないかな」と赤松さんは目を細めて嬉しそう。
YU-KOさん「彼女たちは、得意なことがダンスだけじゃなくて、おしゃれも好きだし、キーホルダー作りも得意。だから、学年が違う子もそれを真似したくなる。2人に影響を受けてキーホルダーを作ったりと、この6年生の2人は、アフタースクール内で、自分の役割を見出している。家に帰ったら、自由に過ごせるけど自分の意志でここにきてるんだと思いますよ」
YU-KOさんは続けます。「大人は、環境を作るのみ。きっかけを作ってあげる。アフターの目的って、そこにあるんやろうと思っています。私らは、お手伝い。ダンスのプログラムも、スタッフも、お手伝いで」
子どもだけでなく、スタッフのみなさんも、なんだか生き生きと自分らしく働いているように見えます。
YU-KOさんは「まちの先生は、ありのままでいいんですよ。土台はスタッフの皆さんが作ってくださっているから」と力説。阿波踊り好きの赤松さんは「夏の時に、阿波踊り好きな子がおったんで、その子と一緒に、踊る?と聞いたら、踊る!と答えてきて。それで、長いこと 踊りました(笑)。アフターになってから、体育館にラジカセ持っていってBTSの曲とか踊ることもあって。私、元来のにぎわしいの好きですから」
榎本さんは「確かに。言われてみれば、常に私も自分らしく、自分にできることをしているような気がしますね」
体制の変革に大変だった当初でしたが、今では、スタッフの皆さんご自身が今までして来た仕事以上に「アフタースクール」という環境づくりを楽しんでおられるようです。
さて、次回は<2:「放課後が、楽しいものへ変わった!」子どもと保護者の思い>
今回、話題に上がった6年生2人も参加しています。本人たちの言葉を楽しみにお待ちください。
文:中村明美