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自分らしく輝く子どもたちとスタッフの想いが作り上げる、温かい第三の居場所。長期プログラム@徳島県拠点

企業協働

2022年11月初旬から2023年3月中旬にかけて、日本財団が放課後の子どもの居場所づくりの一環として運営する「子ども第三の居場所」の徳島県の拠点において、ソニーグループ(以下、ソニー)の感動体験プログラム「長期プログラム」を実施し、延べ76名の小学生が参加しました。長期プログラムは、体験機会を継続的に提供することによる、子どもたちの好奇心、創造性などの非認知能力における効果を測ることを目的として2021年より継続的に実施している取り組みです。徳島県の拠点では、ソニー音楽財団の協力のもと、ピアニストの中川賢一さんを中心に様々なアーティストと“音楽”を起点とした活動を行い、最終回ではこれまでのプログラムで創った作品を用いて、発表会を行いました。

▽感動体験プログラムについて

第1回のワークショップでは、ピアノとヴァイオリンの音色に耳を傾けました。

間近で聴く、中川さんのピアノと礒絵里子さんのヴァイオリンの演奏の迫力に、最初は圧倒されていた子どもたちでしたが、お二人の話を聴いたり、楽器について教えてもらったりするうちに、夢中になっていきました。

音の出る仕組みを知るためにピアノに触れる体験では、振動を身体で感じた子どもたちから驚きの声が上がりました。

後半、中川さんが「心地よかったら寝てしまっても構わないよ。」というメッセージを添えて、部屋の照明を落として「月の光(ドビュッシー)」の演奏を始めると、迫力ある演奏に圧倒されていた雰囲気から空気が変わり、時を忘れて聞き入る子どもたちの姿がありました。クラシック音楽を自由に楽しむこと、その土台作りとなった初回でした。

第2回では、マリンバ奏者の浜まゆみさんをお迎えしました。浜さんが持参してくれたものは楽器ではなく、なんとフライパンや、鍋の蓋。いったいどのような音が鳴るのか、子どもたちも興味津々です。

演奏を聞いて、身近なものでも楽器になるのだということがわかり、まずは全員でマラカス作りに挑戦します。飲み物の空容器に思い思いにビーズをいれると、カラフルなマラカスの完成です。

その後、ビーズに加えて紙コップ、風船、割りばしなど、たくさんの材料が並ぶと、子どもたちは嬉しそうに材料を手に取り、オリジナルの楽器作りに夢中になっていました。
最後は、作った楽器を使ってみんなで大合奏。それぞれの楽器が放つ音が、にぎやかなリズムを刻んでいました。

「いつもはあまり自分の気持ちを言わない子が、”もっと楽器を作りたい“と言ったんですよ。」と、後日スタッフの皆様が嬉しそうに教えてくれました。

第3回では“音楽と絵”がテーマ。

子どもたちは、自分で描いた絵を持ち寄って参加しました。

中川さんが、ある有名な絵をイメージしてピアノの演奏を始めると、プログラム前は少しざわついていた子どもたちも、一気にピアノの音に耳を傾けます。絵は伏せたまま、中川さんが「これは何の絵でしょう?」と問いかけると「ムンクの叫び!」と、あちこちから声が上がりました。

ここから、子どもたちの中で“音楽と絵”がつながり始めます。

次は、自分たちの描いた絵が主役です。一人ひとりの絵を見て、中川さんがそのイメージに合わせた演奏をしてくれました。それを聴いて、はにかんだり、笑ったり。自分の絵が音になる喜びを感じました。

最後は、『キエフの大門』の演奏を聴きながら、感じたことを絵にしていきます。

途中、紙一面をグレーに染めた男の子が、手を止めて、不満げな表情で紙を見つめていました。「新しい紙、つかってもいいよ。」スタッフが声をかけて手渡すと、「ありがとうございます!」と、すっかり明るくなった表情でまた筆を動かし始めました。音を聴いて絵を描く、という初めての体験に、夢中になっていることが伝わってくるシーンでした。

出来上がった絵は、同じ曲を聴いたとは思えないほど、色もタッチも個性豊かでそれぞれ自由!子どもたちの想像力と表現力の豊かさを改めて感じた回となりました。

第4回は、いつも過ごしている場所を離れ、島田島へ赴きました。

音楽を構成している音が、 日常や自然の中にも溢れていることを知るために、ソニーと日本自然保護協会が協働で行っている「わぉ!わぉ!生物多様性プロジェクト」との共催で「耳をすまして、自然の不思議と音を探そう!」のワークショップを実施。

子どもたちはプログラム冒頭で太鼓を用いて音の仕組みを教えてもらった後は、お気に入りの音を探しに、外に出発です。

どんなふうに音を探せばいいのか、まずは全員で、耳を澄ませて聞こえた音を数えます。

風が木々を揺らす音、鳥の鳴き声、飛行機が通り過ぎる音…
注意して聞いてみると、普段の生活の中にもたくさんの音があることに気がつきました。

1人1台、ICレコーダーを首にかけて森の中へ入ると、気に入った音を探して録音をしていきます。音が聞こえた方角に、精いっぱい手を伸ばしたり、背伸びをしたりして音を集めました。

体育館に戻ると、録音した音を聞きなおして、自分のお気に入りの音を決め、みんなの前で発表します。思いがけず入ってしまった友だちの声も楽しみつつ、自然の中にちりばめられた様々な音に耳を傾けた時間でした。

第5回は、中川さんと、ダンサーの田畑真希さんをお迎えしました。

田畑さんが「まきまっちょ」というニックネームで、全身を使ったパフォーマンスで自己紹介をすると、体を動かしたくてたまらない子どもたちはソワソワしはじめます。

子どもたちも“かまきり”“一般人”などの、思い思いのニックネームを付けて、クラシック音楽に合わせたダンスのスタートです。「0から10を、体を使って表そう!」と声がかかると、0の時は床に寝そべる子たちがたくさん。そこからにょきにょきと、手をあげたり足を動かしたり、自由な発想で体を動かします。

「ペアになってやってみよう!」の声で始めたのは、ゆっくりとしたテンポの演奏に合わせて、お互いの手の動きを追いかけながら自分の身体を動かしていくという、ユニークな活動。不思議とダンスになっていきます。「ダンスは苦手」と控えめだった子も、「これならできそう」と徐々に輪に加わっていく姿もありました。

最後は、自分たちで考えてきたポーズを組み合わせて、ダンスを作ります。

中川さんの演奏する『威風堂々』に合わせて、3人1組で試行錯誤しながら創作しました。出来上がったダンスを堂々と発表する姿に、いつも子どもたちを見ているスタッフの皆様が「あの子が、あんな風に表現できるなんて知らなかった!」と新たな一面を発見したようでした。

そしていよいよ最終回です。

中川賢一さんをはじめ、マリンバ奏者の浜まゆみさん、ソプラノ歌手の鵜⽊絵⾥さん、フルート奏者の荒川洋さんをお迎えし、地域の皆様をご招待して、これまでの作品をみんなで楽しむ発表会です。

5回にわたり、クラシック音楽を様々な方法で楽しんできた子どもたちにとって、さらに新しい音を発見する絶好の機会となりました。アーティストが奏でる音に合わせて、自分たちで作った楽器でリズム遊びをしたり、描いた絵を鑑賞したり、ダンスをしたり。途中、荒川さんが作曲したオリジナルの曲の中では、島田島で録音した自然の中の音が聞こえる演出もありました。

最後は、「第九」のアジア初演の場所であるこの地にちなみ、『喜びの歌」を会場にいる全員で大合唱し、全6回のプログラムを終えました。

 

子どもたちと過ごす半年間で見えたのは、中川さんが伝え続けてくださった「みんな違って、みんないい」ということです。音楽を起点とした様々な活動の中では、工作で力を発揮する子、人前で表現することが上手な子、体を動かすときに周りをリードする子など、子どもたちはそれぞれ、異なる輝き方をしていました。得意も苦手も、あっていい。アーティストもスタッフも、そんな風に子どもたちを見守っていました。その温かい空気の中で、子どもたちは表現の楽しさ、そして正解のない表現の魅力を体験することができたのではと感じます。

発表会の終了直後、楽しそうにピアノを弾いている女の子の姿が目に入りました。

「上手だね。」と声をかけると、「うん!習っているんだよ!」と元気に教えてくれました。

スタッフの方にそのエピソードを伝えると、「感動体験プログラムに参加してから、すごく上達して、私もびっくりしているんです。」と教えてくれました。

子どもたちの可能性は、日々広がっていきます。今日、どんな体験に出会えるか。それによって、新しい世界を知ったり、目を見張るような成長を遂げたりするのではないでしょうか。

だからこそ、毎日一緒にいる大人の存在がとても大切です。子どもたちへプログラムをお届けした期間中、現地スタッフの皆様には3回にわたる「大人対話会」を実施しました。

第1回では、子どもたちに関わるスタッフ自身の想いが、子どもたちへの声掛けや行動につながっているということを認識するワークを実施しました。

自分の中にある“想い”に改めて気づくために仲間からフィードバックをもらう活動をすると、「自分は何もできないと思っていたけれど、子どもたちに少しでも影響を与えることができるようになりたいと思った。」「自分が大切にしている想いは伝わっているのだ、と思えた。」といった前向きな声が上がっていました。

第2回では、“体験活動を通した子どもの成長”について対話をしました。子どもたちと長い時間を過ごしていると、成長の瞬間を目の当たりにすることがあります。その様子を共有するワークでは、成長の鍵となった体験に目を向けて、体験活動の重要性を再確認しました。その後、大人になった時にどんなことを大切にできる人でいてほしいのか、2つのグループに分かれて意見を出し合いました。いずれのグループからも“自分自身”と“他者との関わり”という2つの視点が出てきました。この2つを大切にすることができれば、夢や生きる力につながっていくという、スタッフの皆様の想いが見えました。

最終回である第3回では、具体的な体験活動について考えました。

子どもたちにとっては、日常のどんな体験も学びの機会ではありますが、身近にいる大人がテーマを設けて意図的に作る体験機会では、普段とは異なる学びを得ることができます。

第2回でリストアップした「大切なこと」の中からテーマを絞り込み、子どもたちが楽しめて、且つ、成長を後押しできるような活動案を作成しました。話を進めるうちに、それぞれの経験の中から、「こんなことができそう」「こんな知り合いがいる!」など、意見が広がります。最終的に、どんな子どもでも特性を生かして参加できる、スポーツを通した活動案と、拠点で大事にしていた“絵本の読み聞かせ”を発展させた活動案が決定しました。

自分自身と、共に働くスタッフ、そして子どもたちについて、深く考える機会となった大人対話会。初回は不安そうな面持ちで参加されていたスタッフの皆様が、最終回では生き生きと「こんなことができたら!」と想いを口にする姿には、心を動かされました。

元気な子ども達、そして愛情深いスタッフの皆様と共に過ごした6か月間。

想いを大切に、まっすぐ向き合う姿は、大人も子どもも同じでした。

これからも安心で楽しく、子どもたちがますます自分らしさを生かして輝くことができる、第三の居場所であることを、心より願っています。

活動に参加してくれた子どもたち、スタッフの皆様、そしてこの半年間を支えてくれたアーティストや保護者の皆様、本当にありがとうございました。

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実施拠点:日本財団「子ども第三の居場所」/ 放課後等の子どもの居場所(徳島県)

実施時期:2022年11月初旬から2023年3月中旬

参加者数:延べ76名

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