【南あわじ市:3年間の軌跡】(3)「スタッフが、前よりも自分らしくなった」モデル校第2号、広田スタッフ
放課後NPOアフタースクールは2019年より兵庫県南あわじ市の放課後事業支援を行ってまいりました。地域の皆様とあゆみを重ねながら4年目を迎えた現在、南あわじ市の放課後の変化を地域の方々と実感することが増えてきました。今回、四国エリアで活動されているライターの中村明美さんにご協力いただき、南あわじ市の放課後を取材。全6本の記事をご寄稿いただきました。南あわじ市の放課後に起きたことをぜひ多くの方にご覧いただき、放課後の時間が持つ様々な可能性を感じ取っていただけたら幸いです。
3:「スタッフが、前よりも自分らしくなった」
モデル校第2号、広田スタッフ
1:自治体直営の学童保育をアフタースクールへ !モデル校第1号の現場から
2:「「放課後が、楽しい!」子どもと保護者の思い
3:「スタッフが、前よりも自分らしくなった」モデル校第2号、広田スタッフ←今ここ
4:「自分も、子どもも、どう楽しむか」市民先生の思い
5:子どもたちが行きたい、楽しいと思える放課後にしたい。市役所職員の思い
6:スペシャル対談 南あわじ市、学ぶ楽しさ日本一!」守本市長×放課後NPOアフタースクール平岩代表(上・下)
今回お話を伺ったのは、子どもたちの見守りにかかわる仕事歴14年以上の、大ベテランのお二人、主任・大久保由利子さんと清水千幸さん。もうお一人の原田明美さんも8年間、広田小の学童時代から長く関わってこられました。
左から大久保さん、原田さん、清水さん
大久保さんは、アフタースクールの解釈をとてもわかりやすく説明してくださいました。
「私なりの解釈ですが、学童を『保育園』、放課後子ども教室は『幼稚園』と置き換えてみるとわかりやすいかな。アフタースクールは両方の合体、『子ども園』という感覚で理解したらいいんじゃないかな、と思っています」(大久保さん)。
「初めは、『アフタースクールってわからん』という状態でした」と言う清水さん。「『働いていて楽しい』という気持ちは、学童の時からあったんです。楽しいって感覚は、ずっと右肩上がりに上がってきている気がする。今は、アフタースクールのここで、自分らしくいられるようになってきている、そんな感じがありますね」とおっしゃいます。
「自分らしくいられる」という感覚。清水さんは、「私自身が、ここで自分らしく、伸び伸びとできるようになってきたように感じています」と説明してくださいました。
「清水さんは、ちょっとプログラムして、と頼んだら、英語の遊びを、準備なしでもさっとできるんですよ。英語で、わーっと子どもたちは喜んで。英語遊びしながら、班分けまでやってくれる」(大久保さん)と言うことですが、どうやら市民先生だけでなく、スタッフさんたちも、自分の「得意」「好き」をどんどん現場で発揮していらっしゃるようです。
大久保さんも、「私も、チョークアートしたり、楽しんでいますね。他のスタッフの皆さんも、色々、子どものためのプログラムをやってくれるんですよ。任せましたよ、と言うたら、引き受けてくれる。人って、やりがいがあったら楽しめるから」とにっこり。
お二人のやりとりを聞いていた原田さんは、こう説明してくださいました。
「ここはスタッフプログラムも充実していてスタッフたちの『できる』を引き出すのが、主任の大久保さん、とても上手いんですよ。スタッフの一人一人の得意を見極めて、その人にあったように、言葉をかける雰囲気がいい。スタッフも市民先生のみなさんも協力的で、みんなが同じ方向を向いていると感じますね」
「こういうことしてみたい」「こうしてみたら?」とスタッフ間で相談すると、「あかん」じゃなくて、「やってみようか」となるんだそう。「だから、みんな伸び伸びと、できていますね」と原田さんは続けます。
原田さん「スタッフ同士や市民先生にも、プログラム、アイデアの相談などお願いが言いやすい雰囲気。あの雰囲気ってなかなか重要だと思いますね」
そこで、すかさず大久保さんは「アイディアも色々なものがあるので、もちろん、ボツにすることもあるよね。子どもには無理なものはね」と笑います。
3人のやりとりだけでも、すごくいい雰囲気だと言うことが伝わります。さて、子どもたちはどうなのでしょうか。
清水さん「すごく印象的なことが、将棋のプログラムで、子どもたちの様子が変わること。勉強が得意じゃなくて、いやいや勉強している子たちが、将棋の時には変わるんですよ。『紙と鉛筆ください!先生の言うこと、メモせなあかん!』って一生懸命、スタッフに言ってくる。そういう時のあの子たちは、普段見られないくらい、熱心にメモとってて、面白いですね」
原田さん「市民先生のいろいろなプログラムもきっかけに、子どもたちの意外な一面を見ることができ、嬉しいですね。普段、おとなしい子が、百人一首を一心にやってたね」
大久保さん「そうそう。もう大人みたいという落ち着いた雰囲気だったある兄妹は、カブトムシ談義が始まったら変わったよね。『脱走した』『脱走してお腹すいて死んでしもうた』って一生懸命になって。カブトムシの話をきっかけに、大人みたいな落ち着いた様子から変わっていってね。虫をきっかけに変わっていったと感じますね」
子どもの話では事例が尽きず、どんどん出てきます。そんな子どもたちの変化を、みなさんはどう見てらっしゃるのでしょうか?大久保さんの答えは、本当に子どものことをよく見てらっしゃるんだなと感じるお話でした。
大久保さん「子どもたちの『本質』そのものは、たぶん、変わっていないと思うんです。だけど、アフタースクールになって、『自分のしたいことを、したいだけする』という楽しみができた。そこが変化を生んでいると思う」
確かに、子どもたちは家でも学校でも時間に追われて「好きなことを好きなだけ遊びこむ、集中する」と言う経験は少なくなったかもしれません。
大久保さんは続けます。「アフタースクールは、学童と違って自分の帰りたいタイミングで自分一人で帰ることもできる。子どもたちは、『保護者が、いつ迎えにくるか?いつ遊びが中断するか?』という不安がないので、安心して遊べるのだと思うんです。例えば1年生だと、学童の時は、親御さんの都合にあった時間で午後3-4時に迎えにこられる時も多かった。そういう時は、子どもたちは、放課後の遊びが彼らの中で不完全燃焼になるんです」
なるほど!
不完全燃焼で帰ると、「まだ遊びたかったのに」と言う思いが心に残ります。帰宅しても不機嫌になってしまいますよね。でも、アフタースクールになった今では、保護者さんから「(アフターになって)夕方5時までたっぷり遊んで帰ってきてるから、家に帰ってからお手伝いをしてくれる」というお話もよく聞こえてくるのだそうです。
開始3年目の今では、「子どもが行きたいと言っているので通わせたい」という保護者からの連絡が増えているそうです。子どもが「アフタースクールに行きたい」と自主的に親に頼んでいるんだそう。「『そろばんしたいから、この曜日に行きたい』『将棋がしたいからこの曜日に…』という声も多いよね」(清水さん)
子どもたちが、自らの意思で選びとってくる「放課後の自分の居場所」。学童からの移行したのは、わずか2年前です。学童の運営から「アフタースクール」の運営へと移行するとき、スタッフの皆さんの心の中には、どのような変化があったのでしょうか。
大久保さん「『八木に加えて、広田小でもスタートします」と言うときに、市役所の方から「今までの広田さんの学童に、市民先生たちのプログラムを入れてくれたらいいんですよ」と言ってもらえて。今までのところに、プログラムが入ってきたら、それでいいですよ、と言うことで落ち着いたね」
清水さん「学童だろうが、アフターだろうが、広田は、基本は挨拶を大事にしています。『今までのルールの中に、プログラムを入れていくと言うことならできるかな』と思ってやってきた感じでしょうか」
原田さん「モデル第1校目の八木小アフタースクールさんは八木さんのやり方で。2校目の広田は、広田のやり方でいいんだと思えたから、やりやすくなったかもしれない」
ここでも、意識せずに自然な「広田小らしさ」を大事にしておられることが、みなさんの言葉から伝わってきます。
では、小学校との関係はどうなのでしょう。
大久保さん「教頭先生も飛び込みでプログラムに入ってくださる時もあってね。子どもたちは魚好きの教頭先生が大好きで、『教頭先生に勝とうぜ』って。容赦なしに先生を引っ張り出してくるんですよ」
原田さん「コンサートとかね、ダンスの発表会とかも、ポスターを職員室に持って行くんです。当日は、校長先生、教頭先生、関係の先生方が来てくださっています。今年は、ウクレレ野外コンサートをしたんですが、コロナの関係で職員室にはお声がけをしなかったんです。そうしたら、後から『ウクレレのコンサートしたらしいな、見たかったよー』なんておっしゃる先生もいました」
学校とも良好な関係が築かれていますが、大久保さんは、最後に少し付け加えてお話してくださいました。「アフタースクールの楽しさを、これからは、地域の皆さんにも知って欲しいなぁと思いますね」(大久保さん)
子どもも、大人も、その人らしくあること。アフタースクールごとに、「らしさ」があってもいいこと。子どもが思い切り楽しめる「場」を作るヒントがたっぷり詰まった3人のお話。大久保さんのおっしゃるように、地域の人たちにももっと知ってほしいですね。
さて次回、特集4回目は、[4:「自分も、子どもも、どう楽しむか?」市民先生の思い]。
アフタースクールの大きな特徴の一つである、地域の人に先生になってもらう取り組み。実際の市民先生たちはどんなことを感じていらっしゃるのでしょうか?楽しみにしていてくださいね。
文:中村明美