閉じる

Blog活動ブログ

【ご報告】第4回放課後勉強会「子どもの声、願いに寄り添った居場所をつくるには」~言語化しきれない思い、声なき声まで耳を傾けて~

研修

放課後NPOアフタースクールでは、放課後現場運営者、運営に関わるスタッフ、自治体職員の方、そのほか子どもの放課後の在り方に関心があるすべての方を対象に、年度内で全3回にわたり、オンラインによる放課後勉強会を開催しています。

▼2022年度の研修のレポートはこちら
第1回目「放課後の心地よい居場所をつくる上で大事にしたい子どもへの向き合い方」
第2回目「子どもの発達や特性に応じた関わり方・場づくりを考える」
第3回目「子どもの育ちやそれを支える地域のこれからを考える」

第4回目となる今回は、こども家庭庁・居場所づくり専門官の加賀大資さん、放課後NPO代表の平岩、石巻子どもセンターらいつ・館長の荒木裕美さんの3名が「子どもの声、願いに寄り添った居場所をつくるには」をテーマにリレー形式で講演。

▼第4回目のご案内情報はこちら
https://npoafterschool.org/archives/news/2023/05/39332/

日本全国から申し込みをいただいた1100人以上もの参加者の皆様とともに、一児の母であり、この春からアフタースクールに勤める新米スタッフでもある私(筆者)も初参加させていただきました。


■子どもの声を聞きながら“居たい” “行きたい” “やってみたい”と思える居場所づくりを
まず登壇されたのは、子ども家庭庁の加賀さん。冒頭、参加者へ「こども家庭庁を知っていますか?」と問いかけます。投票機能を使っての調査結果は「ほとんど知らない」が9%。「聞いたことがある」の68%を含めるとしっかり認知していない方が8割近くも! 恥ずかしながら、実は私もその中の一人で、「どんなことをしてくれるの?」「何が変わるの?」と頭の中は「?」だらけです。

こども家庭庁は今年4月に発足したばかり。なかなか認知が広がっていないという現状がありながらも、政策の柱のひとつとして掲げている「こどもまんなかの居場所づくり」について、加賀さんは「有識者を交えて議論を重ねながら指針を策定し、今はその中身を詰めている段階」と話され、着々と取り組みが進められていることが伺えます。

また「居場所づくりにおいてもっとも大事にしているのは、“居たい”“行きたい”“やってみたい”の3つの視点。そのために直接子どもの本音を聞く機会を設けています。

ただ年齢的に感情を正確に言語化できない、思春期で素直に気持ちを表してくれないといった課題も。そこで放課後の活動をともにして、そばで見て感じるという取り組みもしています。最終的に子どもたちの声をまとめた報告書を子どもたちにも見てもらい、自分たちの意見がきちんと反映されているかなどフードバックしてもらうんです。そうすることで、子どもたちとのギャップを少しでも埋めていければと考えています」とも。

こども家庭庁ではこうした新しい試みも取り入れながら、まさに「こどもまんなか」の居場所づくりが始まっているようです。


■心身の成長を促す放課後の居場所づくりは、子どもの幸せに貢献できる!
続く当団体・代表の平岩は、「放課後の活動を通じての​居場所づくりの探究​」と題し、データに基づいた子どもを取り巻く環境の変化、これまでの放課後NPOの活動から得た経験を踏まえながら、なぜ子どもにとって学校や家庭以外の居場所が必要かに言及。
改めてアフタースクールや学童保育など放課後事業の存在価値を考えさせられる時間になりました。

日本の子どもたちの現状として、「外で遊ぶ時間が減った(時間)、一人で過ごすことが多い(仲間)、子どもが巻き込まれる事件・事故が増加(空間)と3つの「間」が失われ、ホッとできる居場所がないと感じている子どもが4人に1人も。
昨年、小中高校生の自殺も過去最多となり、こうした背景には諸外国に比べて子どもたちの自己肯定感が下がっていることとも関わりがあるのでは」と分析。

続けて調査データを交えながら、いかに放課後の時間と居場所づくりが子どもたちに大切であるか、その理由を次のように挙げました。

・居場所の数が多いほど、自己肯定感が上がる
・居場所の数が多いほど将来への希望が高まる
・放課後時間と重なる午後4時ごろ体温がもっとも上がり、体がよく動き成長につながりやすい


これだけを取ってみても、やはり放課後はゴールデンタイム!子どもたちの心と体の成長を促す貴重な時間帯というわけです。そんな可能性を最大限に引き出すためにはどうすれはいいのか?放課後NPOのアフタースクールでも実践しているキーワードが語られました。

▼居場所のキーワード

①ありのまま…人と同じでなくてよい。その子らしさを大事に
②自己決定 …その日何をするかは、自分で選んで決める
③役立てる …子ども自身が先生になる
④伴走者  …子どもの「やりたい気持ち」に大人が寄り添う

「以上の4点は、これまで探究する中で気づいたキーワードですが、実はオーストリアの精神科医で心理学者のアルフレッド・アドラー氏が示す『幸せの3条件』や、慶應義塾大学大学院で幸福学を研究する前野隆司教授が定義づける『幸せの4つの因子』とよく似ているのです」と紹介。

そして「我々が考える居場所のキーワードは人の幸福と極めて似ていることから、​放課後の居場所が子どもたちの幸せに貢献できると思っています」と結びました。


■「大人は子どもの声をちゃんと聴いてくれる」そんな雰囲気づくりと信頼関係が大事
最後に登壇されたのは、石巻市子どもセンターらいつ館長の荒木裕美さん。「らいつは、東日本大震災直後に最大被災地である石巻に立ち上げ、利用者は乳幼児から中高生までと幅広く、今や年間来館者数が約2万7千人と多くの子どもや若者が集う児童館になっています」と話します。

今回語られた「子どもの想いが伝えられる場のつくり方」には、そんな子どもや若者が通いたくなる児童館づくりのヒントが満載でした。

なかでも興味深かったのは、施設の運営を、利用する子どもたち自身が地域と連携しながら行っている点。
「そもそも始まりも『街のために何かがしたい!』という子どもたちの熱意から。どんな街にしたいかみんなで話し合いを重ねて白地図に夢のまちプランを作成し、その子どもたちの声を市に提案して児童館『らいつ』が実現しました。この名称も、子どもセンターのコンセプトや条例も子どもたちが考えてつくったものです」と荒木さん。

立ち上げ当時から変わらず今も大事にしているのは、「子どもの声を活かす」取り組みだそう。「第一に考えているのは、子どもが声を上げやすい環境づくりです。らいつでは、地域の課題や活性化に取り組む『子どもまちづくりクラブ』、利用ルールを決める『こども会議』、利用者全員が付箋に書いて意見を伝えられる『ビッグボイス』など、子どもがアクションを起こして発信できる機会をたくさん設けています。

イベントも『子ども企画』といって誰でも発案できる仕組みに。このようにみんなの声がしっかり届いて、反映されているという実感を持つことで、子どもの自信や成長につながればいいと思っています」

また、声の掛け方にも工夫を。「『ダメ』など否定や命令調の言葉を控え、子どもと同じ目線に立って、まずは子どもの気持ちを受け止める。そして子ども自身が考えて行動できるように肯定的な声掛けを心がけています。『大人と話すことが楽しい』『大人はちゃんと子どもの話を聞いてくれる』と信頼関係を育んでいけば、子どもも安心して声を上げられるのでは」

信頼関係の構築は一朝一夕にはできず、日ごろから意見交換や行動を見守るといった積み重ねがあってこそ。「子どもの声に応えるための人材や予算の確保」という課題がありつつも、子どもの力を信じて伴走し続けている荒木さんをはじめ、スタッフの方々に頭が下がる思いです。


■トークセッション

リレー講演後は、参加者からいただいた質問に対して3人が答えるトークセッション。
子どもたちと日々真剣に向き合っているからこそ感じる現場の方々の疑問は、共感できるものばかりで、「居場所づくりのために大人がどうあるべきか」を考える良いきっかけを与えてくださいました。

 

Q 子どもの声を聴くことが大事だとわかっていても、聴いてしまったら反映させなきゃというプレッシャーが。簡単そうで難しい。

A 聴くことに意味があるので、必ず叶えてあげなくてもいいんです。大人もそうですが、親身に想いを聴いて受け止めてくれるだけで救われることもあります。結果ではなく過程を大事にしてください。(荒木さん)

 

Q 子どもの声を聴く際、どうしても声の大きい子の意見に偏ってしまいます。

A 直接子どもの声を聴くだけでなく、見守る中で感じた声にも耳を傾けるなど、立体的に捉えるようにするといいかもしれません。(加賀さん)
なかなか気持ちを伝えられない子もいるので、個別に聞いたり、「いつでも話しかけてもいいよ」という雰囲気づくりも大事。(荒木さん)
子ども会議にこだわらず、いろんな活動の場で子どもたちの話を聞くチャンスはあります。そのときの方が本音を引き出せるかも(平岩)

 

Q 子どもの声や願いに寄り添った居場所をつくるために、大人や行政にできることは?

A まだ始動して間もないこども家庭庁ですが、これまでの経験を踏まえながらこどもまんなかの居場所づくりを進めています。ただ、子どもたちは日々変わっていくので、現場にいくことを大事にしていきたい。(加賀さん)
政策が動けば現場はすぐに変わります。そのためには、まずは大人が変わること。こどもまんなかの居場所づくりが大事という意識をもち、諦めず仲間を集めて地域を巻き込んで、その意識を社会に浸透させていくことが、行政を動かすことにつながると思っています。(荒木さん)

ー視聴を終えて…
9年も前になりますが、私も我が子の放課後の居場所探しに苦労した者のひとりです。最寄りの育成室(学童保育)は定員オーバーで、空きのある育成室に行くことになったのですが、自宅からも学校からも少し遠く、通い疲れて結局途中で退室することに。
子どもと話し合い、代わりに始めたのが習い事と塾通いでした。当時から「本当に子どものために良かったのかな? ちゃんと子どもの本音を聞き出せていたのかな?」という葛藤もあったため、今回の講演の中で胸に刺さるワードが幾つもありました。

まず、子どもの声を聴く。これは簡単なようですが、時間に追われていると疎かになりがちなこと。改めて胸に刻み、我が子にはもちろん、アフタースクールのスタッフとして大切にしていきたいと思います。

放課後の時間がゴールデンタイムというならば、学童や児童館、アフタースクールは子どもたちの目が輝いてワクワクする経験ができるコンテンツがいっぱい詰まった宝石箱かもしれません。そこには、大人が用意した宝石だけでなく、子どもたち自身が考えた宝石もたくさん入れてあげられたらもっと輝きが増すことでしょう。

ただ、子どもたちを安全に見守るには十分な人の配置やスペース、そのための財源の確保も必要です。取り巻く環境にはまだまだ課題もありますが、今回の勉強会を入り口に、放課後は子どもの成長につながる大事な時間であることを感じていただけましたら幸いです。すべての子どもたちが「安心してのびのびと過ごせる居場所」を持てるようにと願っています。

文・大倉幸代

子育て経験や教職免許取得の際に得た知識を活かそうと、放課後NPOアフタースクールのスタッフに。一方で、フリーライターとして20年以上行ってきた雑誌・書籍・広告等への執筆やコピー制作も継続。アフタースクールでは文章を書く楽しさを伝えられたらという思いから「子どもライタープログラム」を進行中。



本研修は、日本財団様の助成により開催いたしました。

全国の放課後の居場所運営者が学び合う勉強会継続・発展のためにご寄付をお願いします
https://npoafterschool.org/archives/news/2023/06/39711/

【本件および研修会等のご依頼に関するお問い合わせ先】
特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール 事業開発チーム
Mail: kaihatsu[at]npoafterschool.org
※[at]を@に変換してください。

Recently最新の記事