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【放課後の価値:対談企画】第3弾「放課後と外あそびの関係性」前橋明先生(早稲田大学人間科学学術院健康福祉科学科教授)×代表平岩

私たちは、全国の放課後がどんな人にとっても安心・安全で、子どもたちがのびのびと過ごし、あらゆる可能性を持つ豊かな時間になることを目指して活動しています。そのためには、「放課後の価値」を社会に伝え続けていく必要があると考えています。

でも「放課後の価値」ってなんだろう?実際に放課後を過ごすことで得られる可能性やメリットに改めて迫ってみたい。そこで、様々な専門家や研究者の方に「放課後の価値」についてお話をうかがってみる企画をはじめました。多角的な視点から放課後の価値を探り、世の中の皆さんと共有していきたい、そんな思いから企画した対談特集です。

3回目の今回は、早稲田大学人間科学学術院健康福祉科学科教授の前橋明先生をお迎えし、外あそびの観点から放課後について色々とお話をうかがいました。

<前橋 明先生(まえはし あきら)のご紹介>
早稲田大学人間科学学術院健康福祉科学科教授。「子どもの健全な成長のための外あそびを推進する会」代表発起人。日本レジャー・レクリエーション学会 会長。国際幼児体育学会 会長。
ミズーリ大学で修士(教育学)、岡山大学で博士(医学)を取得。著書に『乳幼児の健康』(編著)、『幼児体育~理論と実践~』(共著)、『いま、子どもの心とからだが危ない』(以上、すべて大学教育出版)など。

■放課後時間は体温が高い?外あそびと体温の意外な関係。
平岩:先生、どうぞよろしくお願いいたします。まずは外あそびの大切さや生活リズムについてなど、基礎的なことを教えていただけますか?

前橋先生:体温リズムの観点からいうと、私たちの体温は大体36度台で、睡眠時に体温が下がるようになります。体温のコントロールは、脳内で分泌されるホルモンの影響を受けていて、夜中にメラトニンという脳内ホルモンが分泌されると、脳の温度が下がり、自然と休むようになります。朝、βーエンドルフィンやコルチゾールという別のホルモンが体温を上げてくれて脳の温度が上がることで目が覚め、体は動けるようになっていきます。

中でも、体温の高まりのピークは15時~17時くらい、まさしく放課後の時間です。この時間帯は、子どもたちが体を動かし、色々なことに挑戦する、子どものゴールデンタイムですね。勉強やあそびやスポーツなど、工夫しながら友達と協力したり、熱中したりして、様々な効果が得られる時間帯だと思います。

平岩:やっぱり「放課後はゴールデンタイム」でしたか!本当に嬉しいです。ちなみに、この言葉は私たち組織のビジョンなんです。
先生が子どもの健全育成で大切に考えられていることはなんでしょうか?

前橋先生:子どもの健全育成という点でバランスよく育てたい5つの側面があります。➀身体的な面、➁友達と関わるような社会的な面、➂遊び方を工夫したり考えたりする知的な面、➃精神的な面、➄情緒的な面です。
この5つをバランスよく育めるのも放課後の時間帯だと思います。今は、あそび場が少なく、異年齢で遊ぶ機会もあまりない環境で、ゲームのような一人あそびや静的あそびが普及しています。体を動かさないと疲れずに夜遅くまでテレビを見たり、ぐっすり眠れずに生活リズムが崩れたり。生活リズムを整えるためにも、太陽の出ている時間帯に心と体をしっかり動かすというのが必要ですね。

平岩:ありがとうございます。今、生活リズムが崩れて遅い時間にシフトしている子どもたちが多いように思いますが、体にいいと言われる夕方の時間帯に外あそびをしないと、どんなデメリットがありますか?

前橋先生:日中に体をしっかり動かさないと、就寝時刻が遅れ、翌朝の起床が遅れ、朝食や登園・登校も遅れてしまいます。就寝を遅らせる3つの要因として、➀テレビや動画の視聴時間が長いこと、➁放課後の外あそび活動が充実していないこと、➂親の共働きなどによる夕食開始時刻の遅れがあげられます。この3点を改善して生活リズムを整えていくことが大切ですね。

平岩:東京オリンピックの水泳競技で、午前中の決勝は夕方の試合よりタイムが伸びなかった、というような報道もあったのですが、スポーツの成果が出やすい時間帯というのはあるのでしょうか?

前橋先生:日常的には体温の高い日中の時間帯だと思いますが、夜まで練習などをしていると夜型の生活リズムになり、体温の高い時間帯がずれていきます。試合時刻にピークを合わせる調整もあるでしょうが、夜間の練習をやり過ぎないように健康的なリズムで生活するのがいいですね。運動できる時間帯に体温をあげて汗をかいて放熱し、環境にかかわらず体温調整をして体を守ってくれるのが自律神経です。自律神経の働きが弱いと意欲が出なくなり、子どもたちの自発性が見られないといった問題もあると思います。

■自律神経=生きる力そのもの!
平岩:私たちは自律神経をつい精神的な側面で捉えがちですが、自律神経と運動の関係についてもう少し教えていただけますでしょうか?

前橋先生:自動的に体温調整をするのが自律神経ですが、例えば、エアコンの効いた適温の室内環境ばかりで過ごすと自律神経が働かず、抵抗力、適応力、対応力が落ちてしまいます。自律神経を鍛えるためには、まず、室内から外に出ることです。光刺激を浴びて、様々な環境温度に対応したり、運動して熱を作ったり、心肺機能を高めることも大切です。

ドッジボールや鬼ごっこは、自律神経の働きを亢進させるためにも効果的です。幼児期では、朝あそびと午後あそびをして、夜しっかり眠ること。幼児・児童では放課後の時間帯が有効なので、この時間を逃さないようにしたいですね。心と体を動かさないと自律神経も鍛えられず、意欲や自発性も出ないため、自律神経は「生きる力そのもの」と言えるでしょう。

平岩:なるほど、様々な環境変化に対応することで自律神経が鍛えられるわけですね。そのためにもあそぶという経験が大事ということですね。
一方で「学ぶ」という点では、午前中に学習や仕事をするとはかどると言われたりしますが、脳の側面から見ていかがでしょうか?

前橋先生:日中の時間帯は、仕事や学習に良いと思います。中学生の成績と睡眠時間帯の分析結果では、就寝時刻が夜0時を過ぎると成績が落ちているので、午前0時前には寝ることです。脳は、日中に見たり聞いたりした情報を意識化して行動につなげるので、それらの記憶を定着させるためにも睡眠が大事。計画性をもって、よく勉強して、よく睡眠も取ること。集中力の面でも、夜型の生活では良くないですね。

平岩:きちんとした生活リズムを身につけて、太陽の出る午前中は学習して、夕方はしっかり遊び、夜は心地よく疲れてしっかり寝るのが理想的ということですね。ひと昔前の小学生は、このような生活をみんなが普通にしていましたね。

前橋先生:脳の研究では、人が起床してから脳がすっきりと働くまでに2時間ほどかかると言われています。学校が8時半から始まるなら遅くとも6時半には起きる。幼児期も含めて、子どもは6時台に起きられるといいですね。

■小学生時代に多様な動きを経験するといい!そのメリットとは?
平岩:前橋先生は、子どもの運動とか、体の使い方の専門家でもいらっしゃいますが、子どもたちのあそびや体の使い方、運動の面でのポイントはありますか?

前橋先生:まず運動の基本は歩くことです。主役は走ること、その応用編で泳ぐ、滑るなどの動きが出てきます。徒歩通学や通園は大事で、車の送迎などに慣れていると高学年あたりで運動能力に影響が出てきます。また、近年使わなくなったのは、雑巾掛けや土手を転がるなどの回転感覚、支持感覚、バランス感覚などを育むあそびです。こういった動きをプログラムの中に入れて経験させるのも必要ですね。

平岩:保護者の方からよく聞かれることで、小さい頃から同じスポーツをずっとやり続けた方がいいのか、いろいろなスポーツを行った方がいいのか、というのがあるのですが、その点はいかがでしょうか?

前橋先生:やはり多様な動きの経験がいいですね。何かのスポーツをしたくなった時、多様な動きを経験していると応用もきくので効率的です。特に幼児期~小学校低学年までは脳の発育が活性化するので、脳から神経への伝達がうまくいくようなバランスあそびや、ジャングルジムの中をくぐり抜けるような器用さ=巧緻性、鬼ごっこのような方向転換、敏捷性が加わるあそびなど、体の調整力を高めるあそびがいいですね。

ドッジボールは、”ドッジ”が英語で「避ける、かわす」という意味で、身のこなしが上手くなる中学年の時期によく行いますね。高学年になるとスキルや巧緻性、技が身につき、中学生になると心肺機能が発達して持久的な運動にも挑戦できます。体の発育・発達状況に合わせた運動、多様な動きの経験は、一生涯を通して、組み合わせて発達していきます。

今の子どもたちはスクリーン世代なので、奥行きや距離感などの空間認知能力が低いように感じます。実際の空間であそびをしない限りは、空間認知能力は身につかないので、スクリーン世代、静的なあそび、動きの偏り世代、という現状も考えながらあそびの提供をしていく必要があると思います。

平岩:ここまでのお話で外あそびの大切さをご理解いただけたと思うのですが、一方で、習い事などもあり、毎日の外あそびは難しいという声も聞かれます。1週間のうち、何日くらい外あそびすると良いなど、目安はあるのでしょうか?

前橋先生:神奈川県で「3033運動」というのがあります。1日30分、週3日、3ヶ月続けて運動をしよう、ということです。この頻度で運動刺激を与えていくと自律神経の働きが良くなり、体温調節や血圧調節もいい形でできるようになります。朝10分の散歩、公園あそび10分、お風呂の前にちょっと10分のからだ動かし等、トータル1日30分でいいのです。月・水・金のようにバランスをとって週3日、それを3ヶ月行うことが運動を生活化するコツということです。

平岩:最後の話は、日常的に取り入れるのにとても現実的なお話ですね。ここまで十分お話を聞けたのですが、先生の方で「放課後の価値」という面で補足はありますか?

前橋先生:指導者の皆さんへお願いですが、ぜひ自ら戸外活動や外あそびを生活の中に入れていただき、理解してもらうために実践していただきたい。テレビや動画より楽しいあそびや運動を子どもたちにいっしょに行っていただけたらと思います。
コロナ禍では、お互いの距離を保って遊べるようなサッカーや縄跳び、鬼ごっこやダンスなどもいいですね。公園での混雑など、密になるようなことは避けて、工夫して楽しく遊べたらよいですね。

平岩:今日は「放課後はゴールデンタイム」という言葉を先生も使ってくださって嬉しかったです。今回の対談を通して、人の体温がいちばん高い時間がちょうど放課後の時間と重なること、そのタイミングで外でたくさん体を動かすことで、子どもたちの生活リズムを整えることができること、この2つのお話を聞くことができました。放課後の時間を多角的な視点で見てみると、様々な発見があって面白いですね。
私たちも改めて放課後の価値を実感できました。今後、ますます頑張ります!

文・事務局 コミュニケーションデザインチーム/入江

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