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【放課後の価値:対談企画】第2弾「放課後は子どもの脳と人間性を発達させる最後の手段?」 瀧靖之先生(東北大学加齢医学研究所教授)×代表平岩

私たちは、全国の放課後がどんな人にとっても安心・安全で、子どもたちがのびのびと過ごし、あらゆる可能性を持つ豊かな時間になることを目指して活動しています。そのためには、「放課後の価値」を社会に伝え続けていく必要があると考えています。

でも「放課後の価値」ってなんだろう?実際に放課後を過ごすことで得られる可能性やメリットに改めて迫ってみたい。そこで、様々な専門家や研究者の方に「放課後の価値」についてお話をうかがってみる企画をはじめました。多角的な視点から放課後の価値を探り、世の中の皆さんと共有していきたい、そんな思いから企画した対談特集です。

2回目の今回は、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之先生をお迎えし、脳科学の観点から放課後について色々とお話をうかがいました。

<瀧 靖之先生(たき やすゆき)のご紹介>
東北大学加齢医学研究所教授、医師、医学博士
東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授。MRI画像から作成したデータベースにより、脳の発達や加齢のメカニズムに関する研究者として活躍し、これまでに約16万人の脳を読影、解析。著書『生涯健康脳』(ソレイユ出版)、それを子育てに応用した『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「賢い子」に育てる究極のコツ』は、共に10万部突破のベストセラー。

■どこで誰とどう過ごすのか。放課後のコミュニケーションが子どもの脳に影響するワケ。

平岩:瀧先生、今日はよろしくお願いします。
学校では決まったメンバーで活動しますけど、放課後は他のクラスや学年、また他の学校の子と過ごしたりします。そういった環境は子どもや脳の発達に影響がありますか?

瀧先生:多様性があることは大変重要ですね。運動でも趣味でも、好きなことをするといい影響がありますが、特にコミュニケーションは脳の発達、人間性に影響を及ぼすので非常に大事です。
脳の中で、人間性や社会性を司るのは前頭前野の部分で、コミュニケーションにより前頭前野が発達します。相手の仕草を見たり、相手が今どういう気持ちかを理解したりすることで、共感性=社会性を身につけることができます。さらに、異年齢などいつもとは違う相手とコミュニケーションを取ることで、多様な価値観や考え方を学べることが重要です。
家に一人でずっといるより、可能な限りでコミュニケーションを増やすことが望ましいですね。放課後の多様なコミュニケーションはかなり効果が高いと感じます。

平岩:なるほど。
また学校では、子どもたちは受け身の立場が多いと思いますが、放課後は主体的に自由に遊ぶ時間が多い。この違いについてはいかがでしょうか?

瀧先生:そうですね、主体的に行動するメリットの1つ目は、好奇心を発揮できること。2つ目は、実行機能が身につくことで、これも大変大事なことです。
趣味や好奇心は、脳の発達に大きく影響し、将来の認知能力にも影響します。自由な時間に趣味の読書をするといった「行為の主体性」が脳の発達には非常に大事で、好奇心から得られることは、主体性、そして認知能力につながるのです。
2つ目の実行機能は、計画性の視点で大事です。「自分はこれを選んで主体的に実行する」ということ。やることをプランニングしてルールを作ったり、修正したりを無意識のうちにするということが行われます。与えられていないことを自らやることは、脳の発達、人格形成において大きく貢献します。

■高学年の自己肯定感の低下はどこから?現代のネット環境や日本人の国民性から見えること。
平岩:放課後はグループ行動だけじゃなくて、個々で活動する場面も見られますよね。

瀧先生:個々の活動も多様性と主体性の側面で素晴らしいことです。日本人が低いと言われている自己肯定感は、一般的に「愛着形成」や「自然体験」によって育まれると言われていますが、一方で「人と比べること」が良くない影響を与えています。
ナンバーワンになるには限りがあるけど、オンリーワンになることはできる。友達はそこそこいる、ピアノそこそこ、運動もそこそこ、でもその3つをあわせ持つのは自分だ!それがオンリーワンですね。1つの尺度だけで、人と比べることから解放すること。この人はこういうところが素晴らしい、という多様な尺度を持てば、人を認めることもできるようになります。

平岩:親にとっても放課後スタッフにとってもどの子もオンリーワンです!それをもっと伝えてあげたいです。
日本人の自己肯定感についてもう少し詳しくお話うかがってもいいですか。

瀧先生:国民性の違いもあるので諸外国と単純に比較はできないのですが、日本は島国の環境で、均一性が高い傾向があります。自分がはみ出ることに関して違和感を感じる国民性をもっている。でも私たち自身が変えられることとしたら、多様性を認め、小さい頃から多様性を理解することじゃないでしょうか。
日本人特有の均一性は、いじめの一因にもなっているのではないかと考えられます。
みんな例えばですがニューヨークのタイムズスクエアのような、多様な方々が行き来する場所に行ってみたらいんじゃないかと(笑)そこにいる人たちは、肌の色や衣服、見た目も価値観も様々。実に多様なのです。それを理解できれば自分を大事に、そして人を大切にすることも出来るのではと現地に初めて行ったときに感じました。

平岩:子どもの自己肯定感は、小学3年生、中学1年生くらいで低下するというデータ結果があります。かなり早い段階で落ちるので心配になるのですが、放課後の現場だと、小学校高学年が特に辛そうに見えますね。

瀧先生:保護者の方と話すと、子どもとのコミュニケーション機会が減っていますね。スマホやタブレット利用も低年齢化していてSNSの問題もあります。
現代はスマホやタブレットの普及によって、家までいじめがついてきてしまう、安心できる場がなくなってきています。家でもネットの世界から離れられず、解放されず、常に評価され続けて気になってしまう。ネット上ではいつでも人と知り合えてすぐに情報を得られるので、リアルな出会いの場も減っていきます。自分に自信のあることがあっても、ネット検索すれば、さらに上がいることを簡単に知ってしまう環境です。

もう1点、高学年の自己肯定感に影響してくるのは、中学受験の影響もあるかと思います。だいたい3年生くらいから進学塾に行き始め、学校で上位でも塾に行けばもっと上がいて自分の順位がわかる。競争社会の様々な要因が合わさり、今の子どもたちは大人より遥かに大変なのではないでしょうか。

平岩:「自分の居場所」だと感じる場所が多いほど自己肯定感が高まるという話も聞きますが、少子化により子どもに対する親や大人からの干渉も多くなった今、子どもへの寛容度も低くなっているかもしれませんね。

瀧先生:昔は、家があって、部活があって、と色んな居場所がありました。今は帰宅しても親がいなかったり、スマホを見てばかりで会話がないとか。学校や空き地で野球もできない、放課後に遊ぶ仲間もいない。放課後NPOの皆さんの仰る通り、時間・空間・仲間の3つの間がなくなっていますね。

平岩:子どもたちのストレスやプレッシャーも以前より大きいと思います。「将来のために今は頑張りましょう」が多すぎて、今ここの時間を楽しめないという場面が増えています。また「余白」、つまり何もない時間がないこともとても気になっています。
瀧先生が最近の子どもたちに感じる傾向はありますか?

瀧先生:私自身も子育ての渦中ですが、今の子どもたちは大人以上に忙しい。習い事をしていない子はなかなかいないですよね。「うちだけ習い事しないわけにいかない」みたいな感覚で行かせてしまう。そこに塾通いも加わり、さらにキツくなるという傾向。「習い事虐待」という言葉も聞きますが、親の自己満足になっていないかという振り返りも大事ですね。
社会は変化していくものなので単純に比較はできませんが、昔の時代からはとてつもなく乖離している状況だと思います。今の子どもたちは遊ぶ時間が本当にないですね。

余白の時間から学ぶことは多いです。私も夏休みに息子と田舎に帰り、都会の日常を忘れて自然の中でたくさん遊ぶ時間を過ごしました。知的好奇心や探究心が生まれ、改めて余白の時間の希少価値を体感しましたね。
知的好奇心を育むにはアウトドアはとても重要です。人工的に作られたものやゲームの世界は有限ですが、自然やアウトドアは無限の世界。季節も天候も常に変化し、無限に組み合わせができる自然の王国は、私たちの知的好奇心も無限に広げることができる、脳の発達にも重要な環境です。その環境下にいることが大事。外で遊ぶ体験は、子どもたちにとってこれ以上の楽しさはないんじゃないでしょうか。

■様々な場や人と関わる中で、スポーツも勉強も「模倣」の力で伸びていく

平岩:自己肯定感を支える柱が色々ありましたが、親と先生だけでは難しいこともありますね。第三者の大人という視点で、放課後には地域市民という大人の関わりもあります。

瀧先生:素晴らしいと思います。箸を使ったり運動したり、そういうことも大人など模倣の対象から学ぶことが多いです。脳科学的には「未来ニューロン」という模倣に特化した脳の機能があります。私たちは模倣しながら生き延びるのかもしれません。一人で家にいる環境ではなく、人は周りを見ながら成長する機会を持ち、豊かな経験をするんですね。

平岩:小さい頃から保育園に通う子はオムツが取れるのが早いと言いますが。また、子どもの運動面を見ていても、プロなどの質の高いプレーがイメージできている子は上達が早いように見えます。

瀧先生:脳科学的には模倣からイメージ、そしてアウトプットする、ということが大切です。ネットで見るよりは、リアルで見る方がいい。勉強も同じで、できる人のやり方を真似すると学べることが多いです。お手本になる人がいるのはとても良くて、その上でイメージして行動ができる子はすごいんです。英語やスポーツでもそうですね。

平岩:サッカーでは、小学4〜6年生の時期に一番体の動きが身につくスピードが早い「ゴールデンエイジ」があると言われています。

瀧先生:ゴールデンエイジのお話、非常に興味深いです。一般的な運動能力がつくのは3〜5歳くらいだと言われていますが、ゴールデンエイジは高次認識の面ですね。その頃は、サッカーが上手な人を見たときに「じゃあどうやればできるのか?」と考える力がついてきます。ここに運動神経をリンクさせることで飛躍的に伸びるんですね。
もう1点大事なのは、幅です。一流のスポーツ選手はだいたい他のスポーツも経験しています。どのスポーツもできたけど、最終的に残ったのがこの種目だという人が多い。特定のスポーツだけではなく、並行していくつも体験することで体の動きを理解していくのが一番いいかもしれません。

平岩:昔の遊びでも、缶蹴りや塀に捕まったり、色々な動作がありました。今の子たちは幅が狭まっているかもしれませんね。先ほどのゴールデンエイジは10~12歳くらいで、それを有効に機能させるためには9歳までにプレゴールデンエイジが重要だ、とも聞きました。
そう思うと10歳くらいが脳の発達に非常に重要そうで、脳の発達は10歳くらいで臨界点を迎えるという話聞いたことがあるのですが、本当ですか?

瀧先生:生まれてすぐは、見る、聞く、愛着形成など感覚に関わる脳の動きが発達し、2歳までは言語と愛情の中でインプットしていきます。そこから知的好奇心、自分と外の世界が始まり、3歳から運動能力の発達が始まります。小学生になると考える、選択、判断、想像、コミュニケーションなど前頭前野の発達が始まり、8歳では第二言語、特にリスニング力の臨界点と言われています。
ただ、私たちの脳には「可塑性」という変化する力があります。中学生になってピアノに初挑戦するのが遅いということはありません。何歳から何をやっても確実に伸びる可能性を持っています。80歳から英会話を始めても上達するのです。上記の年齢目安は、効率よく習得できるタイミングというだけなので、やりたいときにはじめるのが良いので大丈夫です。

平岩:なるほど、それを聞くと大人も勇気が出ますね。よく「〇歳までに始めないと一生身につかない」という広告がありますが、特に保護者の皆さんは心配しない方が良いですね。

ありがとうございます。脳科学の観点から放課後を紐解いていくと、想像以上に子どもたちにとって大切な点がたくさんありました。
最後に、瀧先生から大切なお話があればお願いいたします。

瀧先生:子どもの発達面でコミュニケーションについてお話しましたが、もう一つ「メタ認知」という機能があります。子どもから大人になるまでにゆっくり築き上げる、自分を一段高いところから俯瞰的に見て、例えば感情などをコントロールする能力のことです。自分を客観的に見る力を育んでいるのです。
友達と喧嘩した時に、ふと客観的にどうだったのか?と考える力。勉強やスポーツで、このやり方でいいのかな?他にも方法があるかな?という客観性を持つことです。そうすると、人を客観的に見る力もついて、いじめもなくなるかもしれません。その客観性を育む上でも多様性が大事と言われています。無意識のうちに感じられる機会を持つことが大事です。

平岩:確かに!一人でいるよりみんなでいることで「外から見た自分」を感じる機会になるんですね。そして私たちは例えば子どもが失敗してしまった時に、「もう一回できるとしたら、どうしたい?」などと、自分で思いを消化してもらうような声かけをします。失敗はまさにメタ認知の場です。大人が無理やり握手させてしまうような解決方法はもったいないと思います。

瀧先生:加えて、大人にも子どもにも「自分の良いところはどこか?」という問いかけを多くするといいですね。相手からもすごいということを伝えるようにする。

平岩:子どもが自分でいいところを気づけないことも多いから、そこは本当に大事ですね。大人の役割として、また放課後の役割として。

瀧先生:そこを大人が見抜いてあげることが大事、そもそもオンリーワンだから!

コミュニケーション、多様性、自己肯定感、メタ認知…。どれもよく耳にする言葉ですが、脳の発達の視点から見ると、全ての要素が密接に関わり合いながら人間性の形成に繋がっていくのですね。
瀧先生の解説で、イメージだけで捉えていた言葉を放課後のシーンで想像し、具体的にその時間の意味合いを理解することができました。子どもも大人も、多様な環境の中で色々な人たちと関わり合う中で、主体的に楽しみ、自分も人も理解していく。子どもたちが放課後をしなやかに、主体的、多くの仲間と過ごせたら、日本人の自己肯定感も上がるかもしれない!そんな具体的な未来へのイメージが湧きました。

瀧先生、本当にありがとうございました!

文・事務局 コミュニケーションデザインチーム/入江

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