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【ご報告】1月29日開催 「ソーシャルセクター×企業で実現するコレクティブ・インパクトによる子どもの格差解消」

2024年1月29日(月)にソニーグループ株式会社(以下、ソニー)との共催で開催したフォーラム「ソーシャルセクター×企業で実現するコレクティブ・インパクトによる子どもの格差解消」をレポートします。

ソニーは、2018年より国内における教育格差縮小に向けて、特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール(以下、放課後NPO)と協働して全国の子どもたちへ「感動体験プログラム」を届けています。また、両者で運営し、企業とNPOの社会課題への取り組みについて議論を行ってきた共同フォーラムも、今年で3年目を迎え、今回も多くの皆様にご参加いただきました。

今回のフォーラムはモデレータに一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ 代表理事 兼 CEO 鈴木栄さんをお迎えし、コレクティブ・インパクトについてご説明いただきました。パネルディスカッションでは認定特定非営利活動法人キッズドア(以下、キッズドア)様、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)様より子どもの格差解消に向けた具体的な事例をお話しいただき、パネリスト全員でディスカッションしながら課題や達成できた点などを共有しました。

▼当日のアーカイブ動画も公開しています。(公開期限:2024年9月末)

※動画のテキスト版はこちら


【フォーラムダイジェスト】
1部:コレクティブ・インパクトとは? 

本フォーラムのメインテーマであるコレクティブ・インパクトについて、NPOや社会的企業への投資とインパクト拡大の経営支援に従事されている鈴木さんよりお話しいただきました。

一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ 代表理事 兼 CEO
鈴木 栄さん

鈴木氏画像

鈴木さん:
コレクティブ・インパクトという言葉が使われたのは、2011年の米スタンフォード大学が発行している雑誌での研究記事の中です。研究者らによると、社会が変わる為には異なるセクターの多数のプレイヤーが長期的にコミットする必要があり、成功するには5つの条件(コツ)があります。
1つは共通アジェンダ(企み)を設定する。2つ目は企みへ向けて共通の測定システムを作ること。3つ目は相互に補完し合う取り組みにすること。4つ目は継続的なコミュニケーションをし、5つ目はこの活動をさせる背骨(バックボーン)組織が必要だという事です。
社会貢献の方法はいくつかありますが、コレクティブ・インパクトは“本質的に社会を変える為に有効な手段”です。つまり、コレクティブ・インパクトは「わたしたちを変えること、わたしたちが変わること」であると定義出来るかと思います。


2部:登壇企業・団体ご紹介
登壇者の皆様より各々の立場で取り組まれている活動についてご紹介いただきました。

株式会社三井住友フィナンシャルグループ
サステナビリティ企画部 社会貢献グループ長 大萱亮子さん

大萱氏写真

大萱さん:
私はSMBCグループで社会貢献活動の責任者を務めています。2017年時点でメンバー約10名であったCSR担当部署が、今や100名を抱える組織に拡大しました。2023年4月にスタートした新中期経営計画では戦略の3本柱のひとつに“社会的価値の創造”を据えたと同時に、このタイミングに合わせてマテリアリティの見直しも行いました。前社長の故太田も強い想いを持っていた部分で、5つのテーマを選定しましたが特に社会貢献の分野で取り組みを強化しているのが、「貧困・格差」と「DE&I・人権」です。本日は、NPOさんと連携した子どもたちへの教育機会の提供についてご紹介させていただきます。

認定特定非営利活動法人キッズドア
理事長 渡辺由美子さん
執行役員 松見幸太郎さん

渡辺氏、松見氏写真

渡辺さん・松見さん:
キッズドアは日本の子どもの貧困に設立当初より焦点を絞って活動を開始した団体です。現在の子どもの貧困率は11.5%、およそ9人に1人が厳しい状況であり、日本で言うとひとり親家庭(9割以上が母子家庭)の貧困が大きな問題になっております。家庭の所得が少ないと子どもの学力が低くなるという問題があり、この状況が進学・就職にも影響し貧困の連鎖が続きます。私たちは教育の部分で様々な方の協力をいただき、子どもたちを学習支援・家庭支援することでサポートしています。団体内の活動だけでなく、日本全国の同じ志を持つ団体さんへノウハウをお伝えしております。子どもの格差解消へ向けては企業・NPOの力がまだまだ必要なので、本日のような場で繋がりが出来ると良いと感じます。

ソニーグループ株式会社
サステナビリティ推進部 CSRグループ ゼネラルマネジャー
石野正大さん

石野氏写真

石野さん:
教育格差縮小に向けて行っている「感動体験プログラム」についてご紹介します。教育格差の中でも体験の格差に着目し、ソニーのアセットを活用して、外部団体と協力しながら体験格差が生じやすい小学生の放課後や、離島などの子どもたちにプログラムを届けています。放課後NPOアフタースクールさんと一緒に行っている「感動体験プログラム」には、「単発プログラム」と「長期プログラム」の2種類があります。「単発プログラム」は全国の学童や放課後へ1~2回プログラムを届け、好きや得意のきっかけづくりをするものです。「長期プログラム」は同じ拠点へ半年間プログラムをお届けし、子どもだけでなく拠点運営のスタッフにも研修を実施しています。第三者機関による社会的インパクト評価では、プログラムを届けた子どもたちの非認知能力に向上が見られるという結果が出ています。1社では届ける規模にも限界がありますので、今後は仲間づくりをして活動を拡大していけたらと考えています。

特定非営利活動法人  放課後NPOアフタースクール
代表理事 平岩国泰

平岩氏写真

平岩:
組織のビジョン「放課後はゴールデンタイム」を掲げており、小学生の放課後を支援する活動をしています。私たちは主な活動として3つございますが、今日は主にソーシャルデザインという企業の資源を活用して全国の子どもたちに教育プログラムを届けている部分をご紹介します。ソニーさんと組んでお届けしている感動体験プログラムやカゴメさんと野菜のプログラム、あんしん財団さんと一緒に伝統工芸の職人の技術を子どもたちへ伝える活動や一種のコレクティブ・インパクト事例である滋賀県の「こどなBASE」の活動もはじめています。「社会で子どもを育てる」、日本中が子どもを応援している社会を多くの企業と一緒につくっていきたいと考えています。


3部:パネルディスカッション ~事例から考えるコレクティブインパクト~
(1)キッズドア 文京区こども宅食の事例

ディスカッション風景

渡辺さん:
文京区にいるひとり親、低所得の子育て家庭に食料品を手渡しでお届けする事業になります。食品を届けることでその家庭と繋がり、問題の重篤化を防ぐという目的もあります。仕組みとしては、企業からの寄付により食品を集め、また独自に購入をしてふるさと納税の仕組みを利用して届けています。1回あたり8キロ程度の食料をココネットさんのドライバーさんが届け、その際に会話をして何か変化がないか確認しています。最近は食品だけでなく、体験や機会のお届けにも広がっています。特徴は文京区(行政)と複数のNPOや企業など多様な団体が入っていることです。私たちの目指す社会としては“貧困家庭が社会から孤立しない”という事。そのために長い時間議論を重ねてロジックモデルを作りました。

鈴木さん:
企業や自治体などバックグラウンドが違う人たちと協働する中でどのようなことをされましたか?

渡辺さん:
目指す社会を明確化する為にプロジェクト憲章を作成しました。昨年までは毎月1回構成員の代表者で意思決定会議を行うなどたくさんの議論が必要でした。またプロジェクト憲章の目的が達成されているのか確認するためにインパクト測定も行い、みんなの方向性が合っているいか確認する事がすごく重要だと思います。バックグラウンドが異なる多くの方と関わるという事は情報ツールの選定に始まり、物事の進め方やそれぞれの社風や文化という背景を分からないといけないですね。

鈴木さん:
今後どのような展望を持っていますか?

渡辺さん:
子ども宅食応援団を作って、子ども宅食のモデルを全国に広げるという活動に発展しています。サステナブルにする為にヘッドコストの削減やプロジェクト憲章の見直しなど、今後拡大する為に方向性をどうしていくのかを検討している段階です。

鈴木さん:
放課後NPOさんも他の多くの企業と協働されていますが、お話を聞いてどう感じますか?

平岩:
企業とNPOの段階は3段階目に入ったと感じています。3.0の今は共通アジェンダを作って一緒に取り組んでいく時代。より多くのNPO・企業と繋がって大きなインパクトを出していく事が大切だと感じます。

鈴木さん:
繋がりをもって一緒にやっていくのは大変な部分もあると思いますがいかがでしょうか?

渡辺さん:
ちょっと大変な部分もあります。でも子どもの事に関われると楽しいんですよ!だから企業の皆さんとコレクティブ・インパクトでもコラボレーションでも色々な形で協働出来ればと思います。

(2) SMBCグループ SMBC グループ・スタディクーポンの事例

ディスカッション風景

大萱さん:
社会貢献の取り組みとして、貧困格差・連鎖の解消を目指し、子どもたちに対し教育機会を提供したいという想いでスタートしました。我々がやりたい分野に既に着手しているNPOを探した結果、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(以下、CFC)さんにお声がけすることにつながりました。CFCさんの取り組みでは学習塾や習い事の費用を対象者に対しクーポンとして提供するため、資金使途が守られた支援が出来ることが特徴です。一方で、応募過多で支援が行き届かない方が多くいるという課題も伺いました。そこでSMBCグループとして3年間で合計3億円の金銭的支援に加え、社内公募を経て選定した社員を派遣し、CFCさんと共にプログラムを運営することにしました。

鈴木さん:
私たちのやりたいこと=どのような社会を目指すかというところだと思いますが、どのようなところでCFCさんとバッチリ合うなと思われたのでしょうか?

大萱さん:
「貧困・格差」に対するアプローチはたくさんあると思いますが、国内での貧困の連鎖が一番気になっています。それに対する有力な解決方法は教育・機会の提供と考えているため、CFCさんの活動に深く共感しました。また個人的には阪神大震災の年に神戸の学校に進学したこともあり、被災地支援からスタートされているCFC代表今井さんの想いへの共感も大きかったと思います。

鈴木さん:
会社のマテリアリティとも繋がる部分について、社内への説明や、何故CFCへ支援するのかという議論など何かありましたか?

大萱さん:
これほどの金額・規模・期間といったスケールのプロジェクトは初めてであったこともあり、経営陣も最初は驚いたようです。それに対し、支援が必要なお子さんがいるということや、経済的な観点でみてもそれが社会的に大きな損失に繋がっているということを強く訴えました。前社長の故太田が「貧困・格差」という社会課題に対し強い想いを持っていたこともプロジェクトが前進する大きな要因だったと思います。

鈴木さん:
今後の展望はどのように考えていますか?

大萱さん:
この取り組みはまだ始まって1年目ですが、支援が行き届くのは我々の地盤があるエリアのみです。ゆくゆくは自治体とも連携し、CFCさんの想いや事業モデルへの拡大を目指したいと考えています。これが結果的にコレクティブ・インパクトにもなると思います。

鈴木さん:
他の企業との仲間づくりについて考えていることはありますか?

大萱さん:
CFCさんが抱える大学生ボランティアの方々に対して金融経済教育を提供しています。その方々に対し、各企業さんが保有するプログラムを通じ一緒に支援出来ることもあると思います。

鈴木さん:
同じ企業の立場としてソニーの石野さんいかがでしょうか?

石野さん:
我々も企業の仲間を探していきたいと思いますが、企業ごとにそれぞれストーリーが存在するのでやりたいこと、実行するプログラムが異なるとは思います。ただ一歩引いて「どんな社会を創りたいのか」という部分の問いを考えると共通項が見つかると思いました。

鈴木さん:
NPOで長くやられているキッズドアの松見さん、企業連携部分で何か変化を感じていますか?

松見さん:
企業の持つ力はとても大きいです。こども宅食事業は行政と7つのNPO等が入っていますがみな持ち味が全然違う。その中で調整役の力というのは大きいと感じます。企業でも支社や部門間での調整業務があると思うのでその力をコレクティブ・インパクトに活かすことも出来ますし、企業が考えている以上にリソースが多いのではと感じます。

質疑応答・登壇者メッセージ

登壇者一同の様子

事前にいただきました質問に加えて、会場の皆様からも複数質問をいただきコレクティブ・インパクトへの関心の高さを感じました。仲間の見つけ方、コレクティブ・インパクトとパートナーシップの違い、インパクト評価の方法、企業がNPOへ求めるもの・ネックになることなど登壇者の皆様の各立場で取り組み内容を通してお話をしていただきました。最後に登壇者の皆様より熱い想いをメッセージとして語っていただき、大盛況のうちに終了しました。


※当日のアーカイブ動画も公開しています。(公開期限:2024年9月末)
動画視聴はこちら(youtubeリンク)
動画のテキスト版

フォーラム終了後、会場では参加者、登壇者、主催側スタッフが挨拶や会話をする場面が多くみられ、閉会の時間になっても多くの方が熱心に情報交換をされていました。イベント後のアンケートでは、全員が「今後もこのようなフォーラムに参加したいと思う」とご回答いただきました。

 

参加者からのコメント(抜粋)
●共通のアジェンダを持つという重要な点を終始フォーラムの「問い」として設定いただいていたことで、実践中の取り組みのなかで重要なポイントを理解出来ました。コレクティブ・インパクトの5つの「コツ」という表現もとても腹落ちしました。
●三井住友フィナンシャルグループのCSRのお取り組みがマテリアリティとして事業活動と並列で言語化されている点が素晴らしいと感じました。日系企業で事業活動と並列に社会貢献活動に注力されている企業は外資系に比べて多くはないと感じています。同社のような企業が増えることで、日本社会が変わっていくのではないかと思います。
●様々なバックグラウンドの方の実践的なお話を伺うことができ大変勉強になりました。
●企業とNPOのコラボ事例をどんどん発信していってほしいです。

当日は1月の寒い日にもかかわらず100名近い方にご参加いただきました。本当にありがとうございました!今回のフォーラムが、少しでも皆様の参考となり、より多くの方や組織が、次代を担う子どもたちの成長を支える取り組みに共感くださり、アクションを起こすきっかけになればと願っています。コレクティブ・インパクトに加えてコラボレーションや支援というさまざまな形で多くの組織が協力して、子どもたちが活き活きと過ごせる社会を一緒につくっていけたらと思います。

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