Interview

私×放課後

No.14

Update : 2021.10.13

Hisashi Iwakuma 岩隈久志 MLBシアトル・マリナーズ特任コーチ、野球解説者

「誰もが世界に羽ばたく
可能性を持っている」

人は失敗した時にこそ、
これまで自分の歩んできた道が
どういうものだったか
理解できるようになると思います。
チャレンジしないより
絶対にした方がいいですね。

岩隈久志Hisashi IwakumaMLBシアトル・マリナーズ特任コーチ、野球解説者

東京都出身。2000年 大阪近鉄バファローズ入団を機にプロ野球選手(投手)としてデビュー。2005年からは東北楽天ゴールデンイーグルスに所属し、チームのエースとして活躍、数々の賞に輝く。2004年アテネオリンピックおよび2009年WBCメダリスト。2011年 シアトル・マリナーズに移籍し、アジア人2人目となるノーヒットノーランを達成。2019年に読売ジャイアンツにて日本復帰を果たした後、2020年現役引退。2021年よりシアトル・マリナーズ特任コーチ、野球解説者として活動。

聞き手
平岩国泰放課後NPOアフタースクール 代表理事

学校が終わるとすぐ、
走って帰って公園で野球
放課後は好きなことを見つける時間

平岩岩隈さんは小学生時代、どんなふうに放課後を過ごしていましたか。

岩隈学校が終わったらすぐに家まで走って帰っていた記憶があります。家に着いたらパパッと宿題を終わらせて、公園に集まって野球をやるのが日常でしたね。 毎日野球をやっていましたけど、ドッチボールもしましたし、狭い公園では鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、何かしら体を動かして遊んでいました。宿題ホントにやってたっけな(笑)。

平岩今の日本は野球もサッカーもできない公園が多いので「公園に行ってもつまらない」という子どもも増えています。ちなみに、のびのびと過ごしていた子ども時代の岩隈さんが“やらかした”いたずらはありますか?

岩隈小学校1年生のころ、砂利の駐車場に建っていたプレハブ小屋に石を投げて、ガラスを割っちゃったことがあります。もう使ってない小屋だろうと思って、みんなで石を投げちゃったんですよ(笑)。もちろんすごく怒られました。

平岩少し前まで、砂利の駐車場、多かったですもんね(笑)。今と比べるといろいろな制約が少ない時代でした。そういったことも踏まえて、岩隈さんは放課後という時間の価値についてどう考えますか?

岩隈学校ではできないこと、好きなことにチャレンジできる貴重な時間ですよね。その中で新しいことが見つかり、自分の道を探す機会になると思います。また、そこで新しい友だちもできると思うので、お互いに尊重し合いながら放課後を過ごす大切さも学んでほしいですね。

パワーではかなわない分
コントロールを磨いたメジャー時代

平岩野球をやっていることがつらくなったり、嫌いになりそうになった時期はありますか。

岩隈高校生の時は、連帯責任についてものすごく厳しいチームで、野球の楽しさを忘れてしまったことがあります。その時は苦しかったですね。

平岩高校野球あるあるですよね。岩隈さんにもそういう時期があったんですね。そんな時期を乗り越えプロ野球選手になり成功され、さらにメジャーリーグにチャレンジしようと思ったのはなぜですか?

岩隈世界一のアメリカで野球ができるチャンスはめったにないので、自分がどれだけできるのか挑戦してみたいと思ったからです。先輩たちがメジャーで挑戦している姿も見てきましたが、テレビの中の世界だったので、「実際のメジャーの世界はどんなところだろう。行けるなら行ってみたい」という思いが少しずつ芽生えてきたんです。

平岩最初にアメリカにいった時には、「ここでやっていける!」という感覚がありましたか?それとも厳しいと感じましたか?

岩隈厳しいなと思いました。日本では9番バッターがホームランを打つことはあまりないですが、アメリカでは9人全員ホームランを打てるメンバーがそろっています。パワーがものすごく違うんです。日本では簡単に打ち取れるような場面で長打を打たれたこともありました。そこで、パワーで勝てない分、技術で補っていく術を見つけなければ太刀打ちできないと考え、コントロールをさらに身につけようと思いました。バッターの特徴を覚え、どういうスイングをするのかを頭に入れながら、コントロールを磨いていきましたね。

平岩自分にないものではなく、すでに持っているものに磨きをかけていったからこその活躍だったんですね。そんな岩隈さんが野球をやっている小学生にアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えたいですか。

岩隈野球以外にも、いろいろなことをやっておく方がいいということです。僕は野球をやっていて、たまたまプロ野球選手になることができました。でも「自分には野球しかない」という考えになってしまっていたので、プロ野球選手になれなかった時のことを考えると、他のことをやっておくことも大事かな、と感じています。もちろん、野球をやり続けたからこそプロの道に近づいたので、好きなことを見つけてそこに突き進んでほしいという気持ちもあります。

小さな挑戦の積み重ねが
夢を実現に導いていく

平岩岩隈さんは常に成功してきたイメージがありますが、挑戦しようという気持ちが折れそうになったことはありませんでしたか?

岩隈常に向上心を持って、失敗しても、大きな壁にぶつかっても、乗り越えてきました。もちろん、ケガをしたりうまくいかなかったりした時期もあります。そういう時も「失敗やつらいことも最終的には成功につながる。だから失敗してもいい」という気持ちを持っていたからこそ、目標を見失わず、一歩一歩進んでいくことができたと思います。

平岩日本の子どもたちは失敗を恐れてチャレンジをしなくなっているという指摘もあります。アメリカと日本の教育・子育ては、どんな違いがあると思いますか。

岩隈アメリカはやりたいことにチャレンジさせる自由な印象がありますが、日本は子どもがやりたいことよりも、親がやってほしいことを望まれるイメージが強い気がします。

平岩なるほど。では、子どもたちの“チャレンジする気持ち”を育てるためにはどうしたらいいと思いますか。

岩隈まずは大きな夢を持つことです。大きな夢を持ったら、それを小さな目標に分解して、一つずつ積み重ねていくことが大切です。小さな挑戦の積み重ねが最後の結果に結びつくので、それだけは忘れてほしくないですね。失敗した時にこそ、これまで自分の歩んできた道がどういうものだったか理解できるようになると思います。そして、今後自分はどうしたいのか、違う道も見えてきます。そう考えると、チャレンジしないより絶対にした方がいいですね。

平岩そんなふうに、小さな目標を積み重ねることで大きな夢の実現に近づくと思うようになったのは、いつごろですか。

岩隈プロに入ってからですね。この世界で生きていくためにはどうすればいいか、具体的に考えるようになりました。1年目は体力的な部分を鍛えること、2年目は試合で投げること、次は1軍に入ること、と目標を立ててそのプロセスを大事にしていきました。試合で負けた経験から学ぶことが多いと気づいたのもそのころです。

平岩勝った経験より負けた経験の方が学ぶことが多いというのは良い教訓ですね。負けたことをポジティブに捉えることができそうです。

アフタースクールの子どもたちにスペシャルプログラムを開催いただきました

選手の自主性を尊重するために
指導者として心がけていること

平岩岩隈さんは今、シアトル・マリナーズの特任コーチをされていますが、指導者として心がけていることを教えてください。

岩隈選手の考え方や背景を理解した上で、どうアドバイスするかを考えるようにしています。自主性を尊重したいので押し付けるような言い方はしません。まずは相手の考えを聞いて、寄り添うように指導するよう心がけています。

平岩まず選手の話を聞くことを第一歩にされているんですね。大事なことだと思います。日本の野球の指導方法も、自主性を尊重する方向に変わってき始めているようですね。

岩隈でも、やっぱり厳しい指導者が多いですよね。プレー中にミスは起こるものなのに、ミスに対して怒る指導者がいますからね。

平岩そういえば、日本で「絶対に怒ってはいけないバレーボール大会」が話題になっていました。指導者が怒ってしまうと「×」が書かれたマスクを着けるというユニークな大会だそうです。

岩隈そういう取り組みがあるんですね。野球の指導者も、もっと勉強しなくてはいけないと感じています。

夢に向かって楽しみながら努力する大切さを子どもたちにも伝えてくださった岩隈さん

大きな夢を持ち
チャレンジする人生を歩んでほしい

平岩今年は東京でオリンピックが開催され、野球では侍ジャパンが37年ぶりとなる金メダルを獲得しました。岩隈さんも2004年のアテネオリンピックを経験されていますが、国際大会は緊張するものですか。

岩隈やっぱり緊張します。国際大会の場で自分の力を発揮する難しさを肌で感じました。見ている側からすると、「なぜこの場面で打者を抑えられないんだ」とか「なぜこんなプレーするんだ」などと感じることもあると思うんですが、プレッシャーでそれができないのが国際大会なんですよね。

平岩さまざまなチャレンジをされてきた岩隈さんですが、人生で一番大きなチャレンジはなんでしたか。

岩隈やはりメジャーリーグに挑戦したことですね。もちろん不安もありましたし、最初はメジャーで活躍できるなんてこれっぽっちも思っていませんでした。ですが、1回きりの野球人生、「挑戦できるチャンスがあるならやってみたい」という気持ちの方が不安より強かったですね。

平岩最後に、日本の子どもたちへのメッセージをお願いします。

岩隈将来、日本を背負うような人になってほしいので、大きな夢を持って突き進んでほしいです。今、メジャーリーグで大谷選手が大活躍しているように、誰もが世界に羽ばたいていく可能性があります。ぜひ、しっかりと目標を持って進んでいってください!