Interview

私×放課後

No.13

Update : 2021.4.23

Keisuke Honda 本田圭佑 挑戦者

「幸せとは好きな人と
好きなことをやること」

僕にとって放課後は、とても自由な時間でした。
友だちと遊ぶのが楽しくて、
いろんな遊びをしました。
放課後は勉強を頑張ったご褒美で、
「よし!ここから情熱が解放できる!」
と思うわけです。
好きな人と好きなことをやるのが、
究極の幸せだと思います。

本田圭佑Keisuke Honda挑戦者

大阪府出身。8歳からサッカーを始め、高校時代に公式戦デビュー。その後プロサッカー選手として国内および世界各地で活躍し、チームのために大きく貢献。日本代表選手としての活躍もめざましく様々な偉業を果たす。さらに選手以外の活動も精力的に行い、サッカー指導者、サッカークラブ経営者、実業家、カンボジア代表GMとしても知られる。

聞き手
平岩 国泰放課後NPOアフタースクール 代表理事

友だちといろいろなスポーツを
楽しんだ小学校時代

平岩本田選手は、どんな小学生でしたか?

本田選手(以下、本田)自由にやりたいことをしていましたね。友だちと遊ぶのが好きで、スポーツもゲームもたくさんやりました。小学生の頃はサッカーと野球をやっていて、サッカーに絞ったのは中学生になってからなんですよ。

平岩サッカー以外のスポーツも得意だったんですね。野球の本田さんもやっぱりスゴかったんですか?

本田いやいやいやいや。

平岩子どもの頃、いろいろなスポーツにふれた経験は、サッカー選手になってからも活かされていますか?

本田サッカーはチームで戦うスポーツですし、動きが複雑でミスも多いんです。子どもの頃にいろんなスポーツをしていた経験は、チームメイトとコミュニケーションを取りながら枠にはまらない動きを取り続ける部分など、活かされていることが多いと思います。

放課後は、
情熱を解放する時間

平岩小学生の頃の放課後は、どんなふうに過ごされていましたか?

本田僕にとって放課後は、とても自由な時間でした。授業を楽しんでいる子どもはあまり多くないと思っています。僕自身、授業は拘束される時間という感覚でした。その分、放課後は情熱が解放される瞬間。といっても、昼休みの後は、全部放課後でしたけれど(笑)。

昼休みが終わっても教室に戻らないので、担任の先生が僕たちを呼びに来るんです。僕たちは別の教室や中庭に隠れていて、そこから先生とのかくれんぼが始まって、また楽しい遊びが続く感覚です。

平岩先生を鬼にした、リアル鬼ごっこ&かくれんぼですね。さすが世界の本田さんです(笑)。

本田ドキドキして面白かったですよ(笑)。

文化祭の時は、図工室を真っ暗にしてお化け屋敷を作っていたんですが、図工の時間が終わっても続きを作りたくて、教室に戻らず図工室でひたすら息をひそめて隠れていましたね。そのほかにも授業に出ないで友だちの家に行ったり、公園に行ったり、公道でショート駅伝をしたこともあります。全部僕が言い出しっぺだから、真っ先に怒られましたね(笑)。

平岩色々と面白いこと考えて、友だちとたくさん遊んでいたんですね。

本田はい。友だちと遊ぶのが楽しくて、いろんな遊びをしました。グラウンドでドッヂボールをしたり、鉄棒をしたり、砂場で道具を使わず遊んだり。いつも誰かと遊んでいました。3歳上の兄がいたので、年上の子と遊ぶのも好きでした。そこで遊びの幅が広がったと思います。

平岩放課後NPOアフタースクールに集まる子どもたちも、何をするかよりも、友達と遊ぶことがすごく大事だと言います。本田選手は、子どもの頃の放課後の過ごし方が、大人になった今につながっていると感じる部分はありますか?

本田子どもって、自由な時間になると、新しい遊びや楽しみを思いつくんですよね。僕はこの、放課後に思いつく作業がすごく大事だと思っていて。古いルールを壊して新しいルールを作ることにつながったりして、とてもクリエイティブな作業だと思います。僕はゼロから何かを創り出すことが好きなのですが、これは子どもの頃からずっと変わっていないと思いますね。

平岩放課後って真っ白な時間だからこそ、ゼロからイチが生まれる。まさにそうだと思います。本田選手は放課後に対して、そういった自由な時間であることに最も価値を感じていたのでしょうか?

本田僕にとって放課後はご褒美であり、デザートみたいなものでした。学校は理性を育てるために必要な場所だと思っているのですが、6時間目まで、授業がありますよね。この制約は子どもにとってつらいもの。だからこそ、放課後は勉強を頑張ったご褒美で、「よし!ここから情熱が解放できる!」と思うわけです。

僕は嫌いなものから先に食べて、最後に好きなものを食べるタイプです。今でも朝起きたらまず、嫌だなと思うことから始めます。辛いことを後回しにすると、それをこなすエネルギーが残らなくなりますから。

平岩最後に好きなものタイプですね。
ちなみに、本田選手の好きな食べもの、苦手な食べものは何ですか?

本田子どもの頃は野菜全般が苦手で、水で一生懸命流し込んでいました。ゲンコツは愛の時代でしたから、食べないと親からゲンコツが飛んでくるんですよ。ただ、野菜以外は何でも好きでした。給食のメニューではカレーが好きでしたね。今はお肉が好きです。お寿司も好きなので、魚も好きですね。

子ども時代から現在に至るまで、熱い想いを語ってくださった本田選手

一人では生きていけないから、
人の役に立つ人間になってほしい

平岩本田選手ご自身の子育てについて教えてください。お子さんたちに対して、大切にされていることはありますか?

本田結局、親は、子どもが健康でいてくれたら充分だと、そこにたどり着くのかなと思います。
このことを前提に、人の役に立つ人間になってほしいという願いがあります。人は一人では生きていけませんから。つまり、生きるために勉強をするのだと思います。このことはしっかり教えてあげたいと思っています。

平岩他にも、子育てで大切にしていることはありますか?

本田僕は父親から、「一番になれ!」と言われて育ってきて今の自分があると思っています。だから、どうせやるなら一番を目指してほしいですね。

平岩一番になるためにどんなことが大切だと思いますか?

本田何ごとも自分自身で考えることが大切だと思います。「一番になる」でも、なんでもいいのですが、目的さえ決まったらそれを達成するために何をすべきか、答えが出るはずです。だから、まずは目的を決めることに大きな価値があると思っています。たとえば10年後、15年後に世界一になりたいと決めて、そのために毎日頑張ってみること。いろんなことをやってみて、その結果どうだったのか、家に帰って親に話してみるといい。友だちにその考えをシェアするのもいいですよね。そこで新しい考えやもっと良いやり方が見つかるかもしれない。いずれにしても、進む方向が決まれば考え方がよりブラッシュアップされていくんです。

よく一番になるための方法を聞かれるのですが、僕だって、今も世界一になっていないから悔しい思いをしているわけです。でも、答えがないからこそ楽しい。何よりも夢を追って成長している過程が好きなんですよね。僕は今も自分の夢を追うことが人生の中心にあるので、実は子育てにおいてはあまり言えることがないんですけどね(笑)。

平岩親が自分の夢に向かって進んでいる背中をわが子に見せるのは、とても大切なことだと思います。大人も子どももそれぞれ外で頑張って、帰宅したらお互いに「お疲れさま」と言い合える関係はすばらしいです。
本田選手の今追いかけている夢は何ですか?

本田東京オリンピック・パラリンピックに出場して、勝つことです。

平岩心から応援しています。子どもたちを勇気づける、とても素敵なメッセージだと思います。

小さい頃から、お金を稼いで
家族を幸せにしたかった

平岩本田選手は現代の子どもたちに、どんなことを感じていますか?

本田僕は今年35歳になるのですが、ここ20〜30年の間に、インターネットやSNSの発達によって情報へのアクセス方法が劇的に変化しました。それによって、今の子どもたちは、様々な情報に接していますよね。ですが、本当に良い情報を得ることは難しいのではないでしょうか。フェイクニュースもたくさんあります。これは子どもだけの話ではありません。新しい仕事を生み出すために、良い情報にアクセスする努力は必要不可欠です。

AIの発達によって今後は失われていく仕事もあるでしょう。そんな時代だからこそ、大人もアフタースクールのように、仕事が終わった後に情熱を解放させて、勉強を続ける必要があるんじゃないでしょうか。

平岩大人も情熱を解放させる時間が大切という視点はとても興味深いです。そういったお考えは、本田選手がサッカーだけでなく、ビジネスを展開されていることにも関係するのでしょうか。ビジネスはいつ頃から興味を持ち始めたのですか?

本田僕は子どもの頃からたくさんお金を稼ぎたいと思っていました。お金持ちになったら、家族を幸せにできると思ったからです。小学生の高学年の頃にサッカー選手を夢見た時も、そのことを意識していました。

ビジネスや経済について本格的に勉強し始めたのは、2016年頃です。2010年、ワールドカップ南アフリカ大会で日本がベスト16に選出された時、現地の孤児院を訪れる機会があったのですが、経済格差について考えさせられました。

2010年、南アフリカの子どもたちと(本田選手ご提供)

その後、サッカー選手として自分の夢を持つことの大切さを伝えたくて、サッカースクールを日本で立ち上げました。恵まれない子どもたちにも、サッカーをする機会を届けたくて始めたんです。一方で、経済的にアプローチしなければ、根本的な問題は解決しないことも痛感したんです。そこで、サッカー選手として得たお金を社会に還元する方法を探っていたら、アメリカにはわずかな資金で事業を始め、ものすごい勢いで世の中を変えていく、スタートアップという存在があることを知りました。それをきっかけに、投資事業を始めました。

平岩私たち放課後NPOアフタースクールはNPOという形をとって、放課後の活動をおこなってきました。まわりにはNPOやベンチャーの仲間がたくさんいるのですが、海外と比べて日本ではまだ苦労する点が多いのが実情です。ただ、本田選手のようにそういった団体や企業を応援する方がいることを励みにこれからも頑張ろうと思います。

自分の成長にフォーカスできれば、
どんなことも楽しくなる

平岩子どもたちから本田選手に、いくつか質問を預かっていますのでお聞きいたします。
「本田選手は、モチベーションが下がった時、どんな風に回復していますか?」

本田夢のことを考えますね。そして、自分の成長にフォーカスします。モチベーションが下がる理由は、実は人間関係だと思うんです。「まわりの期待に応えられない」とか、「まわりを失望させてしまった」とか。周囲の評価を気にしすぎるとつらくなります。だから、自分の成長に注目します。今日できなかったことは、明日できるようにする。できたらとにかく自分をほめるんです。

平岩確かに、人は自分の中に問題の原因があると思ってしまうけれど、実は人間関係の中にあることは多いですよね。アドラー心理学にもそういう考え方があります。だからこそ、他人の目ではなく自分の成長に注目する。子どもにも大人にも通じるモチベーションの保ち方ですね。

次のご質問です。
「本田選手は息抜きはしますか?するならばどんな息抜きですか?」

本田サッカーが息抜きです。ビジネスも息抜きのようなものですね。息抜きって、考え方次第だと思うんです。自分の成長にフォーカスできれば、何でも楽しくなるし、息抜きにもなると思います。他にも、携帯電話のアプリでゲームもしますし、読書もするし映画も観ます。1日に1時間はそういう時間を持つようにしています。ゲームも当然1番を目指すのですが、自分より上手い人が山ほどいて、悔しくて腹を立てて携帯を投げつけそうになるのを何とかこらえるのをメンタルトレーニングにしています(笑)。

平岩なるほど、そこもトレーニング!さすがです(笑)。
では、子どもたちからの最後の質問になります。
「本田選手にとって幸せとは何ですか?」

本田「好きな人と好きなことをやること」ですね。好きなことと、好きな人、どっちが欠けてもだめだと思っています。5年後、10年後には、好きなことも好きな人も変わると思いますが、その時々において、自分に合った好きな人と好きなことをやるのが、究極の幸せだと思います。今だと、ビジネスの仲間と日々新しいプロジェクトを立ち上げることがめちゃくちゃ楽しいですね。

平岩私たちも、子どもたちに幸せだと思える時間を持ってもらえるよう、そのきっかけがアフタースクールでたくさん生まれるよう、引き続き子どもたちと接していきたいと思います。本田選手のお話を伺って、本田選手はご自身のために色々な活動をされているように見えますが、実はいつも誰かのために動かれているのだと感じました。本田選手の夢とご活躍をこれからも応援しています。子どもたちからの質問にも丁寧に答えていただき、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

本田アフタースクールの話なら何時間でも出来そうです(笑)。日本に戻ったらぜひアフタースクール行きますね!