Interview

私×放課後

No.11

Update : 2020.2.14

Tomoya Shiraishi 白石智哉 フロネシス・パートナーズ株式会社 代表取締役CEO/CIO
ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP) 理事

「小さくて弱い人たちに
優しい視点を」

子どもは放課後に初めて小さな社会を体験して、
人間の嫌な部分も突きつけられます。
でも、それも含めて人が生きていく
ということだからこそ、
小さくて弱い人たちには優しくしたい
という思いがあるんですよね。

白石智哉Tomoya Shiraishiフロネシス・パートナーズ株式会社 代表取締役CEO/CIO
ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP) 理事

シリコンバレー、アジアでベンチャー・キャピタリストとして投資経験を積んだ後、2005年まで(株)ジャフコの事業投資本部長として同社のバイアウト投資の責任者を務めた。その後、欧州のプライベート・エクイティ投資会社であるPermiraの日本法人社長を経て、2015年から中小企業専門の投資会社フロネシス・パートナーズの代表。2012年から2019年までソーシャル・インベストメント・パートナーズの初代代表理事を務め、現在も理事としてインパクト投資やベンチャー・フィランソロピーを通じた社会事業支援にも従事している。第一号支援先となった放課後NPOアフタースクールの理事。1986年一橋大学法学部卒業。

聞き手
島村 友紀放課後NPOアフタースクール 理事・事務局長

放課後は、子どもたちが
初めて社会を経験する場所

島村白石さんには、ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)と日本財団が共同運営する「日本ベンチャー・フィランソロピー基金(JVPF)」が放課後NPOアフタースクールへの支援を開始して下さった時からずっと支えていただき、ありがとうございます。今日は、白石さん自身の放課後の原体験や印象に残っている過ごし方などをお聞かせ下さい。

白石このサイトのタイトルは「放課後はゴールデンタイム」ですが、僕にとっては決してゴールデンタイムじゃない時もいっぱいありました。無味乾燥で灰色な印象しか思い出せない放課後もあって……。今思い出すのって、やっぱりそっちなんですよね。

放課後は学校が終わってから夕食の時間ぐらいまで、子どもだけで自由に過ごせる時間ですが、そこは守ってくれる大人もいない、ルールもない世界です。自由に過ごせると言いましたが、僕は子どもほど不自由な存在もないと思っています。小さくて弱いし、能力も体力も未熟で、自分でどこか違う場所に行きたいと思っても行けません。

だからこそ、小さくて弱い人たちに対する優しい視点が必要なのですが、子どもは不自由な存在のまま、ルールのない子どもの世界に入っていきます。そこで初めて小さな社会を体験して、人間の残酷な部分とか、嫌な部分も突きつけられます。

島村確かに学校では、ある程度の枠におさまっているので、予定調和的なところがありますよね。でも、放課後は良い方にも悪い方にもブレやすい。そして、白石さんがおっしゃったように、放課後は社会の第一歩のような体験が出てくると思います。

白石僕は小学校の時に何回か転校したんですが、転校してまだ友だちがいない時に、学校の行き帰りにいじめられるという経験をしました。学校からの帰り道にいじめる子たちに会いたくないな、でも会うかもしれないと思いながら帰って、夕食までの時間をビクビクして過ごしました。

長年支援いただくも初めて伺う白石さんのプライベートなお話に胸を打たれました

辛かった放課後から
救ってくれたのは
母の大人としての行動だった

島村いつもの白石さんを見ていると、少年時代もみんなと楽しく過ごしていたんだろうなと思っていましたが、そうではなかったのですね。

白石もちろん、友だちができて楽しく遊んだ時期もありますが、自分の原体験といえるような出来事がありました。ひどいいじめをしていた5人ぐらいの子たちに、「そんなことやめろよ」と言ったら、僕がいじめられるようになったんです。ある日なんとかしなくちゃいけないと思って立ち向かったら、見事に負けて川に落とされて。ずぶ濡れになって帰ったことがありました。

その時、母親が僕の話をよく聞いてくれたんです。そして、「あなたに非がないことはわかった」と言って、相手の親たちに話をしに行ってくれました。そうしたら、相手の親たちも理解してくれ、自分の子どもたちを叱り、「二度とそんな卑怯なことはさせない」と言ってくれたんですね。

それをきっかけに、母はいじめていた子の親とすごく仲良くなりました。その姿を見て、「ああ、大人はこういう風にやるんだ」と思ったんです。相手をやっつけるわけでも、逃げるわけでもなく、向き合うことで友だちになっちゃう。すごいなと思いました。それから辛い時間がちょっと明るくなって、友だちができたり、また辛くなったりを繰り返しましたが、放課後って人生で初めてそういう経験をする時間なんだと思います。

島村私も小学校3年生ぐらいの時に、転校先で女子グループの見えない壁に阻まれて一人で泣いた経験があります。すごく辛かったですね。それが社会の第一歩だったと整理できるようになったのは、大人になってからです。放課後は強烈なエピソードが残ったり、忘れられない経験が生まれたりする時間だと、改めて思いました。

のび太にとっての
ドラえもんのように、
放課後を一緒に過ごす第三者を

島村白石さんの場合は、お母さまが素晴らしい立ち振る舞いをされましたが、ひょっとしたらそれが放課後の先生や他の大人である可能性もありますよね。子どもはそんな大人の行動を見て、社会や大人に対して前向きな気持ちを持つことができますし、そういう体験ができるのも、放課後ならではだと思います。

白石そういう意味では、ドラえもんって、まさに放課後を一緒に過ごす第三者的な存在ですよね。いじめられたら道具を出して助けてくれたり、時には「いつも逃げてばかりいちゃダメだ」と励ましてくれたりもします。スネ夫とかジャイアンとか嫌なやつもいて、その中でのび太は生きていくわけです。僕の場合は母親がそうでしたけど、ドラえもんみたいな第三者がいると、のび太みたいに救われるんじゃないかな。

島村私たちもまさに、みんなのドラえもんでありたいと思っているんです。子どもたちに「社会の中で自分は何かできるかもしれない」という期待を持ち続けてほしいと思っています。放課後NPOアフタースクールはそのために伴走できる存在でありたいと思っているので、今、白石さんの口からドラえもんという言葉が出てきてすごく嬉しいです。

会社も、社会的事業も、
人を幸せにするためにある

島村白石さんのおっしゃった「優しい視点」という言葉がすごく印象的です。白石さんが人の幸せや、小さくて弱い人への優しさを大切にするようになったきっかけはありますか。

白石僕は小学校4年生の時に弟を亡くしました。一緒に行ったプールでの事故でした。小さくて弱かった弟はあっという間にいなくなってしまいました。命のもろさや大事にしないと両手からこぼれるように無くなってしまう不安が、心の奥底にあるのかもしれません。

そして、最近すごく共感したのが、アフガニスタンで殺害されたペシャワール会現地代表の中村哲医師の言葉です。「泣いている人がいたら、駆け寄って行って、『どうしたの?』と言えるような子どもたちを増やそう」という言葉なんですが、人の気持ちを思いやることって、想像力があるからできることですよね。僕が優しさを大切にしたいのは、逆にそういう想像力がない場面をたくさん見て来たからなのかもしれません。

社会人になってからも、海外で仕事をしている時も、常にそういう場面はありました。でも、それも含めて人が生きていくということであり、実は自分の中にも醜い嫌な部分があります。それも全部存在を飲み込んだ上で、そんな世の中だからこそ、小さくて弱い人たちには優しくしたいという思いがあるのかもしれません。

島村白石さんが社会的投資をされている理由も、そのあたりにあるのでしょうか。

白石僕が様々な会社に投資をして来たのは、会社の事業は人を幸せにするためにあると思っているからです。例えばこの場面を撮影しているカメラのような製品を作って届けることも、人を幸せにすることだと思っています。だから僕の中では、会社と社会的事業、営利と非営利は対極にあるものではなく、どちらも人や地球を幸せにするために存在していると思っているんです。

ですが、営利事業では救い取れない弱くて小さい人たちが世の中にはいます。その人たちに対していろいろな活動をしているのが、まさしく社会的な事業です。企業に投資するのと同じようなやり方で、NPOや社会的事業に取り組む会社を中長期で支援すれば、世の中に役立つ社会的な事業が広がっていくだろうと考えました。そして2011年の東日本大震災の時に、いろいろなNPOや社会的事業と出会い、これから日本でも放課後NPOアフタースクール代表の平岩さんのような社会起業家がどんどん出てくるだろうと思って、2013年からSIPで社会的投資を始めました。

僕たちが投資先を選ぶ際に、社会的ニーズがあるかどうかという点とともに、他の団体と差別化された特徴を重視するのですが、放課後NPOアフタースクールは出会ったときにはすでに、学校の中でやっている点、学校を地域に開かれた存在にしている点、市民先生や企業との連携によって子どもが大人の生き方に触れることができる点で、他の民間学童などと大きく違っていました。スケールアウトできれば、社会にかなり大きなインパクトを与えられるだろうと思い、支援を決めました。

投資家としての鋭い視点と優しい視点を語る白石さんとこれからも子どもたちのために

優しい視点を持ち続け、
よりハンディがある子にも
支援をしてほしい

島村2013年に初めて支援をくださって以来、白石さんは私たちの活動に伴走してくださっていますが、これからの放課後NPOアフタースクールが大事にすべきことや、期待していることなど、お気づきの点をお聞かせいただけますか。

白石何よりも、小さくて弱い人たちに対する優しい視点を、放課後NPOアフタースクールの皆さんには絶対に忘れてほしくないと思います。それこそが平岩さんの創業の精神であると思いますし、スタッフや事務局の皆さんが一番共感している価値観だと思います。

そして次のステップとして、よりハンディがある子、ネグレクトや虐待のある家庭で育つ子どもたちや、家庭自体がない子たちへの社会的な活動もぜひやってほしいですね。例えば、家庭環境を提供しようとしている団体と組んで放課後に何かするとか、他の団体と協働してインパクトを出すという方法にも取り組んでほしいと思います。

島村実際に、児童相談所へ相談するケースも年に数回出て来ているので、現場のスタッフは同じような思いを強く抱いていると思います。特にセーフティネットとしての機能の必要性を感じ、弁護士に研修をしてもらったりもしています。放課後に求められることやできることは、まだたくさんあると感じているので、これからも模索を続けていきたいです。

白石収入の面でも常勤スタッフ数の面でも、放課後NPOアフタースクールのように、規模が大きくなるNPOはまだ日本にはなかなかありません。これだけ組織が大きくなるとこれまでと同じやり方ではうまくいかないことも出てくると思いますが、現場から改善にむけての行動が自発的に起きるような仕組みを取り入れると良いのではないでしょうか。同時に、常にトライアンドエラーを繰り返して、持続的に成長し続けられる組織であってほしいと思います。

島村日本もどんどん変わって来ているので、利益をあげることと社会的な貢献を同時に実現できる社会になるよう、放課後NPOアフタースクールはこれからも白石さんと一緒に歩んでいきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いします。