Interview

私×放課後

No.09

Update : 2019.11.25

Maki Ohashi 大橋マキ 一般社団法人はっぷ 代表

大切なのは、
「そのままの
自分でいいよ」
と自分が自分に
言ってあげられること。

何かに迷ったり、つまずいたりすることも大事な
経験だと思うんです。家族じゃないからこそできることもある。
まわりの方の手を借りながら、子どもたちにも
子どもたちらしく育ってほしいなと思います。

大橋マキMaki Ohashi一般社団法人はっぷ 代表

神奈川県出身。1999年聖心女子大学文学部卒業後、フジテレビにアナウンサーとして入社。その後植物療法を学ぶため英国に留学。帰国後、IFA認定アロマセラピストとして病院で活動し、現在はアロマや園芸農法を用いて福祉、地域振興、企業支援に至るまで幅広く活躍。2018年に一般社団法人はっぷ(葉山つながりProject)を立ち上げ、神奈川県葉山で自然と共にある暮らしを通し、地域の繋がりづくりを実践。

聞き手
出羽 瑤子放課後NPOアフタースクール 本部マネジャー

転校のたびに増えていった、
放課後のおもしろい思い出

出羽大橋さんの小学校時代の放課後を教えてください。どんな風に過ごされていましたか?

大橋鎌倉生まれなのですが、父の転勤で幼稚園を2回転園して、小学校は3回くらい転校しました。その度に友だちもコミュニティも変わって、違う放課後を過ごしていました。

鎌倉から静岡に引っ越した時は幼稚園生だったのですが、ザリガニを取ったり、木登りをしたりしていました。ザリガニを割りばしで釣っていたときの目線で、その頃のことが一つひとつカラーではっきりと思い浮かびます。

茨城の小学校では、川べりをみんなで自転車に乗って走っていると、突然、白い蛇が出てきて大騒ぎしたことがありました。別の日には、近所のお兄ちゃんが蜂を網でつかまえて、おしりの針を目の前で取り、「これで大丈夫」と言ったことも。その時、子どもながらに「自分たちは安全かもしれないけれど、この蜂は生きるために必要なものを失ったのではないかな」と心配になったりしました。

小学3年生頃に転校した東京の学校では、商店街の子どもたちがたくさんいて、留守番中の友だちが私たちにきなこをまぶしたお餅をふるまってくれて。「自分でつくったおやつを友だちにふるまうって、かっこいい!」と憧れたのを覚えています。また、みんなで酒屋さんからもらった一升瓶のふたをひたすら集めて、コレクションを見せ合ったりもしましたね。

小学4年生の時に横浜に引っ越しました。新興住宅地だったのですが、それでもあの頃はまだ草地がたくさん残っていたので、友だちとひみつ基地を一生懸命作っていました。

転校がきっかけで、こんなに幅広く放課後の遊びを体験できて、学べたことも多かったなあと今になって思います。

日常にある「やりたい」ことが
いつしか自分を癒す力になる

出羽現在、大橋さんはアロマセラピストとして活躍すると同時に、地域で「一般社団法人はっぷ(葉山つながりproject)」という活動もされていますが、こちらはどんなふうに始められたのでしょうか。

大橋8年ほど前に開催した、葉山町社会福祉協議会主催のアロマセラピーの講座がきっかけです。地域の方にアロマを使ったケアや癒しをお伝えしていたのですが、次第に、アロマに頼らない、日常の生活のなかでのセルフケアができるのではないだろうかと思うようになりました。それは、自分から「やりたい」と自発的に行動すること。そうすることが一番、自分の中でエネルギーが湧いて、結果的に自分を癒すことにつながるのではないかと思ったんです。

そんな思いをきっかけに、講座に来てくださった高齢者の方や介護をしている方にとってリフレッシュできる場所はどんな場だろうと探っていきました。その時、葉山の方にとって畑がとても身近なものであることを思い出したんです。この地域のお年寄りの多くは、小さいころから農作業をしてきたんですよね。そして、講座が終了するタイミングで、「次は畑をやりませんか?」とお誘いして、数名の参加者と一緒に畑サークルとしての活動が始まりました。今では医師や園芸療法士、セラピストなど様々な仲間と一緒に活動しています。

ガーデン(畑)では、お花の苗を植えたり、草を取ったり、お水をあげたり、いろいろな作業があります。こうした動作の中に、日常動作が詰まっているんです。新たに体操を習うのもいいですが、その人が昔からやってきた、慣れ親しんだ動きの中にエネルギーを引き出す要素があると思いませんか。

出羽すばらしいですね。アフタースクールでは、子どもたちの得意を引き出すことを目的にしたプログラムが多いのですが、日常の生活の中で自然な形で引き出されていくと、子どものいい面がより育ちそうです。子ども同士の関わりも変わっていきそうですね。

ご自身の体験やそこで感じたことを通して見えたものを丁寧に語る大橋さん

自分に自信がもてると
発信するようになる

大橋その人自身が変わると、まわりとの関係性も変化していくことを、はっぷの活動で実感しています。何かに自発的に取り組み、自信がもてると、自分から発信するようになるんですよね。

たとえば、ある植物を水に浸して梅シロップを入れると紫色からピンク色に変わるのですが、先日、一人のおばあちゃんがその変化のしくみを理解して、ほかの方に教えてあげていたんです。みなさん認知症の方だから、聞いたことは忘れてしまうことも多いんです。だから、しくみを理解してさらに教えてあげるというのは、とてもすごいことです。しかも、「梅シロップの代わりに、レモンでもいいよね」と思考を発展させていました。本当にすごいなあと思いました。

ガーデンでは、どうすれば楽しい記憶が残るか、ということに気を配りながらみなさんと接しているのですが、何か一つ自信がつくとアクションを起こしたくなるんだなということを、お年寄りのみなさんから学んでいます。

出羽私たちアフタースクールでも、まわりの大人はサポーターになり、子どもたちが自発的に「これがやりたい」と思える環境をつくっていきたいです。そのなかで自分に自信が持てるような経験を積んでもらえたらうれしいです。

大橋ガーデンをされているみなさんは、お庭が好きというよりも、どうやら仕事がしたいらしいんです。一緒に活動してくださっている介護士の方々も話していましたが、お年寄りたちは自分が役に立っている姿を、一人でも多くの人に見てもらいたいと思う方が少なくないそうです。ガーデンでの仕事は、その欲求が満たされるのだと思います。人の役に立ちたい、その姿を見てほしいという思いは、何歳になっても変わらず持ち続けているものなんですよね。そして、それは子どもも同じですよね。

出羽子どもも、「見て、見て」とよく言いますよね。

大橋いたずらも、見て欲しいという気持ちからはじまっていたりしますね。お花も、見られている場所のほうがきれいに咲くって言われているんですよ。

活動のお話からそれぞれの子育てエピソードまで終始盛り上がる2人

感じる心を元気にしておく。
すべてはそこから始まる

出羽大橋さんはアロマセラピストになる前はアナウンサーのお仕事をされていましたが、「なりたい」と思うきっかけはなんだったのでしょうか。

大橋中学3年生の頃の国語の経験が大きいかもしれません。もともと小学校低学年の頃から、朗読の途中で緊張のあまり倒れてしまうほど人前が苦手な子供でした。中学校の国語の先生にその旨を伝えて、「朗読で私を指さないでください」と直談判をしたら、なぜかその先生が朗読の練習に付き合ってくれるようになって。「上手に読もうと思わずに、ゆっくり読もうとか小さな目標を作ってみたら?」などのアドバイスを受けましたね。

自宅でも練習をするようになり、暗唱できるくらいスラスラ読めるようになりました。その後、授業で指されても緊張することなく読めたうえに、静かな教室に自分の声が響き渡ったその瞬間、気持ちがいいと感じたんです。ひとつ苦手を乗り越えた後に、それまでとは違った景色が見えた、そんな経験でした。

高校に進学した後も、自分で伝えることの手ごたえを感じた経験があって、マスコミを目指すことに決めました。そうしてアナウンサーになったのですが、入社後は、「自分の言葉で伝えたい」という思いをうまく消化することができず、悩んでいました。

あるとき情報番組の取材先でアロマに出会いました。セラピストさんが私の身体に触れた瞬間、自分の心が開かれるのを感じて、「言葉以外にも、伝える方法があるんだ!」という大きな発見をしたんです。それをきっかけに、「伝える」を深めたくて、アロマを本格的に勉強しました。そうするうちに見えてきたのが、「誰かに何かを伝えるには、自分自身は真っ白でいい」ということ。何かに出会って、自分の心が揺れ動く。それを言葉にすればいいのだと。だからこそ、伝える言葉を豊かにするには、自分の心を元気にして、しっかり感じられる状態にしておくことが大事だとわかりました。

これはどんな仕事でも、どんな立場の人も同じですよね。出会った人から何を得られるか、それが人間の根っこじゃないかと思うくらいです。

出羽とても共感します。自分が感じたことを表現する、その方法にその人の個性が出てきますよね。アフタースクールでも、どんな表現の仕方が自分に合っているのか、大事にしたいことは何なのかを子どもたちとの日常の中で見つけられるといいなと思いました。

お話したカフェには地域のみなさんとつくっている美しいお庭

本来の自分を出せることとの出会い。
その経験が人生を豊かにする

出羽私は幼い頃、文章を書くのが好きでした。その代わり、人前で話すのはどちらかというと苦手だったのですが、言葉をとても大事にしていたと思います。当時、私にとっての表現方法は、書くことだったんだなと今思いました。そのほかにも、イラストや音楽など、いろいろな表現方法がありますが、子どもたちに、自分にとって大事なものと出会う経験をしてもらえたらいいなと思います。そのためにも、いつも心を元気にしていられるように私たちもサポートしていきたいです。

大橋心を元気にしておくためには、ある程度、自分で自由に決められる環境が必要だと思います。特に親は子どもを思うあまり先回りしてしまったりすることもあると思いますが、それだと子どもたちは、迷うこともできないですよね。何かに迷ったり、つまずいたりすることも大事な経験だと思うんです。これは大人も同じで、もし何かを感じることができても、「そうじゃないよね」とまわりから否定されてしまったら、なかなか前には進めないと思いませんか?

出羽そう思います。アフタースクールでも、子どもたちには自分の気持ちに素直になれる時間を過ごしてほしいと思っています。

大橋家族じゃないからこそできることってあると思います。家族中心になりがちな子どもたちの世界にそっと風を通す意味でも、アフタースクールさんの活動にはとても期待しています。

私は伝える仕事について悩んでいた時、アロマと出会って気持ちがとても楽になりました。本来の自分を出せるようになったことで、伝える仕事も人と接する仕事も本質は何も変わらないし、分ける必要はないと思えたんですね。大切なのは、そのままの自分でいいよ、と自分が自分に言ってあげられること。私の子どもたちは今、地域のみなさんに育ててもらっているようなありがたい環境にいますが、まわりの方の手を借りながら、子どもたちにも子どもたちらしく育ってほしいなと思います。