Interview

私×放課後

No.07

Update : 2019.9.20

Koji Mitani 三谷宏治 KIT虎ノ門大学院 教授

「決める力」と「発想力」は
放課後に育つ

本来、放課後とは自由な時間なのだから、
何事も自分で決めるのが当たり前。
なのに、子どもが失敗しないようにと
大人がアドバイスなんてしたら台無しです。
一所懸命やって失敗するからこそ、
子どもはそこから多くを学ぶのです。

三谷宏治Koji MitaniKIT虎ノ門大学院 教授

福井県出身。東京大学 理学部物理学科卒業後、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、およびアクセンチュアにて19年半、経営コンサルタントとして働く。92年INSEAD MBA修了。2003年から06年 アクセンチュア戦略グループ統括。2006年からは特に子ども・親・教員向けの教育活動に注力。現在は大学教授、著述家、講義・講演者として全国をとびまわる。早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授、放課後NPOアフタースクール・3keys理事。永平寺ふるさと大使、3人娘の父。

聞き手
後藤 愛放課後NPOアフタースクール 企業・行政協働プロジェクト担当

子育ては、
「自分で決める」
プロセスの積み重ね

後藤三谷さんは子どもの頃、放課後をどんな風に過ごしていらっしゃいましたか。

三谷家が田舎の八百屋さんで、放課後まっすぐに帰ってしまうとそのお手伝いが待っているんですよね。膨大に。だから、とにかくゆっくり、寄り道をしながら帰っていました。田んぼのあぜ道を通ったり、川べりを歩いたり、山の中に入ってみたり。そんな風にして、友達何人かと帰っていました。夕方5時まで外で遊んで、その後は夜までほぼお手伝いです。小学校低学年の頃から、家族みんなが家業を分担しながらやっていました。

後藤忙しい小学生ですね!自由時間はありましたか?

三谷お手伝いを終わらせたら好きにすればいいので、案外自由な時間だらけだったんです。平日にばたばたするのがいやだったので、宿題は学校で終わらせてしまっていたんですよね。中学高校に上がっても、予習はほとんど全部週末に済ませ、平日夜は本を読んでゆっくり過ごす、という生活を送っていました。

後藤自主的にそうしていらしたのですか? ご両親に言われた、ということではなく?

三谷自主的ですね。ただ、親が仕向けた部分もあると思います。私の両親はとにかく子どものすることに口を挟みませんでした。進路のことさえ「この学校を受けます」と事後報告で、父からは「おう」と一言返ってくるだけでした。内心思うところはあったようなんですが、私には一切言わないんです。何事もすべて本人が自分で決めるもの、という姿勢が一貫していました。私自身はそういう環境で育って良かったと思っていますが、いざ自分が親の立場に立った時にそうできるかというと、さすがにあそこまではできません。完全に任せ切るというのはやはり難しい。

だから私は「意思決定のプロセスには口を挟むけれど最終的な子どもの判断は尊重する」としています。子どもが「こういうことをしたい」と言ってきたら、まず「理由や目的」を尋ね、それがハッキリしていれば次に「ちゃんと調べたのか」と聞きます。「決める」ということは、選択肢を広げてそれを絞るということです。それをないがしろにしているようならば絶対認めないし、子どもたちなりにそのプロセスを踏んでいれば、もしその判断自体が間違っている(と思った)としても認める、ということを徹底しています。

後藤今の日本の教育に必要なことも、その辺りにあるのでしょうか。

三谷子育てというのは結局のところ、自身による意思決定の体験を繰り返させていくことだと思っています。塾や試験や進路の話にしても次の家族の旅行はどうしようかというような話でも、全てにおいて「きちんと調べて考えて決める」というプロセスを踏ませ、そしてその判断を受け入れ応援します。それは家庭でこそできることだと思っています。

後藤私にも子どもがいますが、どうしても口を出してしまいます。

三谷子どもが失敗するのを見るのがつらいから、つい手を差し伸べたくなるということですよね。でもそれこそが破滅への道なのだと自らを納得させるしかありません。「いつも親の手助けを受け、言う通りにやってきました」という人間が大人になって自立し、幸せになれるでしょうか。それじゃあダメだと、親自身心から思うしかないんですよね。

「決める力」と「発想力」は
放課後に育つ

後藤放課後という時間も、自分で決める力を養うのにすごくいい時間だと思いますが、われわれアフタースクールはどのように関わっていったらいいでしょうか。

三谷本来放課後は自由だから、何事も自分で決めないといけないですよね。親が習いごとで埋め尽くしたり、先生が宿題で縛ってはいけません。また、放課後にはもうひとつ「自由に遊ぶ」という大事な役割があります。制限のない中で自ら楽しいものを作り上げる「発想力」を育てる場であるとも思います。

アフタースクールでは、横の関係が生まれるのがいいですね。親と子どもという上下の関係の中ではなんとなく論理的に話したり、感情を爆発させればそれで済んでしまいますが、横の関係だとそうはいかない。横の関係の中で自分の主張を通そうとぶつかりあい、もまれていくことで社会性が育まれていきます。

そこに関わる大人は、自分と子どもの関係が「上下」ではなく「斜め」であることを意識することが大切です。子どもが失敗しないようにアドバイスすることが大人の役割ではありません。たとえば子どもが料理をするとき、目的は「美味しくつくる」ことではありません。「まずかった!」「焦げちゃった!」でもいい。一所懸命やって失敗したら、そこから子どもたち自身が学べばいいんです。家庭だと難しい部分も、アフタースクールならばひとつのプロジェクトとしてもう少し冷静に見られるはずだし、楽しい試行錯誤を仕組みにできると思います。

自身の子育てと教育活動。大人がどうあるべきかをそれぞれの視点で。

「失敗」を「学び」に変えるために
大人ができること

後藤失敗から学ぶことの価値は、親としてはなかなか納得しにくいのかもしれません。アフタースクールでも、その部分を発信していく必要を感じています。

三谷失敗したら「いい経験したね!」と声をかけたり、失敗が次の改善につながる体験をさせることで、「失敗することはだめなことじゃないんだ」と子どもに実感させてあげることが大切だと思います。

長女が中高生の頃、中間・定期試験の後に必ず反省会を開いていました。何点取ったか、というのは問題にはしません。「正解できなかった問題の分析をして、対策を考える」が反省会のテーマです。するとたとえば「覚え切れないものが多かったから、試験勉強期間を伸ばします」というように、それなりの対策が出てきます。その対策が十分なものかどうかもとりあえず問題にはしません。実際に実行してみてそれが結果につながらなかったら、また分析して「2週間は長すぎたようだから、次は10日間かなあ」と。そうやって、自分で計画と改善のプロセスを回していくことが大切なんです。

彼女は大学生になって、「私にはわからないことはいくらでもあるけれど、それが怖くはない。解決したければどうすればいいのかはわかっているから」なんて言っていました。その通りです。何か問題があったときに、それに対して自分が動ける、対処できる。その力さえ育てば、子育ては完了です。

ご自宅には幅広いジャンルの本がたくさん!発想力の源にも。

新しい教育に向き合う
「企業」「親」のあり方

後藤企業のみなさんとプログラムを作るときにも、こういうプロセスを組み込んだプログラムの設計にすれば、子どもたちの自分で決める力を育んでいけそうです。今、子どもたちが社会とのつながりをつくる取り組みを進めていますが、大人の側がそういった新しい教育のあり方に対して、心の準備が整っていないと感じることがあります。たとえば企業の側では、子どもから問い合わせがあるということにどう反応したらいいかわからない。親も「こういうやり方でいいのかしら」と迷う。突破口を探しているところです。

三谷いろいろなことに積極的に取り組んでいる企業と組んだり、協力会社をたくさん作っておく、というのはいいと思います。そして「アフタースクールの提携・協力会社のリストに入る」ことでチャレンジングな会社だと認知されたりそのことがステイタスになっていくようだといいですね。

また、親に対する発信としては、特にアフタースクールに来る小学1、2年生の頃は、「もっともっとほめよう」と伝えたいですね。なぜなら、1、2年生は自己肯定感がすごく高いのに親がそれほどとは思わず大してほめないからです。親が「この程度か」と思っていても、子どもの方は「すごくできた!」「がんばった!」と思っている。そこを大いに認めてあげてほしいですね。そこからこそ子どもたちが自ら動くサイクルが回っていきます。

教育現場に必要なのは、
「同じこと」をやり続ける力

後藤10周年を迎えたアフタースクールに、「これを大切にしてほしい」「これは変えていかないと」ということはありますか。

三谷講演会などで子どもたちに言うことがあります。「『今どきの若い者は』という言葉があるけれど、キミたちが劣化しているわけではまったくない。ソクラテスだってそう言っていたし、そう言われていたんだから(笑)。ただ、対処すべき問題は昔より難しくなってきている。知識や経験では解けないことだらけだ。でもだからこそ先輩や経験者に勝てるんだ! 楽しい時代だよ」と。そこで大切なのは「発想力」「決める力」「生きる力」による「試行錯誤する力」です。これはこれから不可欠かつ普遍的な力だと思うので、子どもたちのそういう面を伸ばしていくということはずっと続けて欲しいと思います。

内部のことで言えばキャリアのあり方はこれから考えどころです。教育の場では、毎年新しく入ってくる子どもたちに対して同じことを繰り返していくことになります。組織が拡大している間はいいのですが、成熟してくると関わる大人自身は成長意欲を満たしにくくなるので、モチベーションの維持が難しくなります。これはなかなか大変なこと。アフタースクールでも、組織としての持続性をどう捉えるのかという話題が出ていますね。人材構成やキャリアパス、キャリアモデルも含めて考えていく必要がありそうです。

後藤10年間やってきた上での次のステップ、ということですね。

三谷子どもたちや親が「来たい、預けたい」と思えることと、働く人が「ここは最高の職場だ」と思えることの、どちらも最高のレベルで両立させることを目指してほしいです。

後藤次の世代が大人になることをワクワクできるように、わたしたちも組織として本当に価値ある存在、ワクワクする組織になっていきたいです。アフタースクールは今すごく面白いステージに来ています。社会人も子どもも学生も、それぞれが自分の持っているものを持ち寄って一緒に何かできることの面白さを、未来に届けていきたいです!