Interview

私×放課後

No.06

Update : 2019.8.26

Hirotada Ototake 乙武洋匡 作家

「子どもが楽しんだり
考えたりしながら
学べる機会を学校で」

多様な人々や価値観に触れられる機会を
放課後の子どもたちにつくれたら
豊かな成長につながるのかなと思います。

乙武洋匡Hirotada Ototake作家

東京都出身。早稲田大学在学中に出版した『五体不満足』が600万部を超えるベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。小学校教諭、東京都教育委員などを歴任するなど、教育への造詣を深める。現在は「note」にて精力的に執筆活動を行なっているほか、『AbemaPrime』で金曜MCを務める。近著に『ただいま、日本』(扶桑社)。

聞き手
坪井睦放課後NPOアフタースクール 現場責任者

大人の付き添いのもとで
遊ぶことを求められる子どもたち

坪井乙武さんの子ども時代を教えてください。どんな放課後を過ごしていましたか?

乙武世田谷区の小学校に通っていたのですが、小学1年生のときにファミリーコンピュータが発売されたこともあって、友だちの家でファミコンをやって遊ぶか、広場のような場所に集まってサッカーや野球をしていました。

時代の大きな違いを感じるのは、大人の存在です。外で遊ぶ時、私たちは子どもだけで勝手に遊んでいたと思うのですが、今は誰かしら大人がそばにいるイメージがあります。

坪井そうですね。何か事件に巻き込まれないためなど、保護者の方が安全な環境を求める傾向にあると思います。

また、公園でゲームをしていても、子どもたちのはしゃぐ声を聞いたご近所の方が警察に連絡をすることもあるようです。「見に来てください」と。都内は住宅が密集していることもあって、思い切り遊べる環境ではないかもしれないと感じています。

乙武2007年から2010年の間、杉並区で小学校教員をしていた時は、地域のほとんどの公園がボール遊び禁止でした。このことも自分の子ども時代と比べて大きな隔たりを感じたし、正直かわいそうだなと思いましたね。公園でボールを使えないって、一体何のための公園なんだろう!って。

学校やアフタースクールは、
実体験の格差をなくす場

坪井乙武さんの小説『だいじょうぶ3組』を拝読しました。重度障がいの担任の先生が、5年3組の子どもたちや介助員の先生と協力して桜の下で学級会を行うなど、印象的な場面が多かったのですが、乙武さん自身、子どもたちに実体験から学んでもらうことが大切だとお考えでしょうか。

乙武はい。学校に関しては、生まれ育った環境に関係なく、子どもたちが実体験の機会を共有できる場だと思っています。教育や体験が大切だと思っていても、経済的な事情などでそれを叶えることが難しいご家庭もあります。そういった格差をリセットするのが公教育の役割かなと。

子どもが置かれている環境は家庭によって千差万別ですが、それが子どもたちの学力や体験の差にそのままつながるのは健全な社会ではないと思います。その差を埋めるために、子どもたちが楽しんだり考えたりしながら学べる機会を学校が提供していくべきですよね。

ただ、学校は午後3時くらいで終わってしまいます。そこから自宅に帰宅するまでの時間に格差が出やすいのですが、アフタースクールさんは、放課後を過ごすすべての子どもを対象に、いろいろな体験をしながら学べる場を提供されています。そんな環境を作り続けていることが本当にすばらしいと思います。

子どもの純粋な問い、興味に
体験を通して応える

坪井私が担当する公立アフタースクールは、1年生から6年生まで40人~60人の子どもたちが利用しています。成長面や出身国など様々な背景の子どもたちが放課後を一緒に過ごすため、インクルーシブな環境を目指しているのですが、対応に悩むこともあります。

たとえば、小学3年生の子がより簡単な内容の宿題をしているとします。すると同じ小学3年生の子がそれを見て「ずるい」と。この「ずるい」は、「なぜ違うことをやっているのか知りたい」という純粋な興味もあっての言葉だと思うのですが、どう声がけをすればいいのかわからなくなることがあります。

乙武お子さんの性格にもよると思いますが、私なら2つの方法で対応します。1つはしっかりと説明をする。もう1つは、荒療治になりますが、「ずるい」と言っている子にも「同じ内容の宿題をやってみる?」と声をかけてみます。

立場の異なる相手のことを子ども自身がきちんと納得して理解できるように、周囲の大人が丁寧に説明したり、同じ立場を経験することで、相手の気持ちを理解できると思っています。

キムチが変えた、「当たり前」

坪井ご家庭の出身国や価値観が異なることで、「当たり前」の概念を考えさせられることが多々あります。私たち放課後スタッフも、多様な価値観をもって保護者の方や子どもたちと接することが必要だと感じています。

乙武おっしゃる通りで、私は新宿在住が長いのですが、新宿区は住民登録の12%以上が外国人です。日本国籍だけど海外にルーツをもった方を含めるともっと多いと思うんですよね。杉並区で教員をする前、新宿区教育委員会の非常勤職員を2年間務めさせていただいたのですが、その間通っていた小学校の教員の方は様々な対応をされていました。

すてきだなと思ったのは、韓国から転校してきたばかりの子が、日本語がうまく話せないなどの理由で孤立していたのですが、教員の方は、その子が子どもたちにキムチ作りを教える授業をしたんです。そうしたら、他の子たちが「キムチって作るの難しいけど、美味しいね」「作るの楽しいね」って。自然とその文化を理解して近づくことができたんです。

他には、お母さんたちにも講師になってもらって、出身国の料理を教える場を定期的に開くなどの取り組みをしていました。なるほどと思ったのですが、海外から来られたご家族で一番取り残されがちなのはお母さんだと。お父さんは仕事があって、子どもは学校があるけれど、お母さんは、特に専業主婦だと属するコミュニティがない。そこをつないであげるのも教師や放課後支援員の役目かもしれません。

坪井まさにそうだと思いますし、コミュニティから取り残されないように一生懸命になりすぎてストレスを抱えるお母さんもいると思います。乙武さんのお話を伺って、お母さんたちに、料理や遊びなどでアフタースクールに関わってもらうのもいいなと思いました。

子どもたちのための楽しいアイディアに笑顔が広がる

これから鍵を握るのは
スポーツ、音楽、料理などの
非言語コミュニケーション

乙武これから鍵となるのは、スポーツと音楽、そして料理など非言語によるコミュニケーションだと思っています。日本はとても特殊で、民族の混ざり合いが少なく、これまでは大半の人が日本語を母国語としてきました。でも、この10年でその比率は変わってきています。出入国管理法改正によってその流れは加速していくのでしょうが、急に日本人の英語力が向上するとは思えません。

その中で、非言語コミュニケーションが重要になってくるのだろうと思っています。スポーツや音楽、文化は国境を超えると言いますが、まさに言葉が後回しになっても、同じものを楽しめたり、一体感を生むことができたりすると思うんです。たとえば、学校から配布されるプリントはなくならないと思いますが、視覚的にわかりやすいものに寄せていくのはどうかなと。必要な持ち物に「体操着」と文字で書くのではなく、体操着の絵を描けばわかりやすいですよね。

坪井なるほど。

乙武もう1つ、私は「まちの保育園」「まちのこども園」という保育園とこども園の経営に携わって9年になるのですが、そこのコンセプトとして地域と一体になった子育てを大切にしています。世話好きのおばあちゃんや雷を落とす頑固おやじのような、老若男女、様々な方と触れ合える空間を目指しています。

アフタースクールさんには、ぜひ多様な人々や価値観に子どもたちが触れられる機会を作っていってほしいですね。普通に小学校時代を送っていたら知り合えないような方々と出会える場を作っていただけると、子どもたちの豊かな成長につながるのかなと思います。