放課後の遊びが育ててくれた
冒険心や探究心
中條今は子どもたちの遊び場が少なくなっていますが、古田さんは小学生時代、放課後をどうやって過ごしていましたか。
古田今の子どもたちみたいに塾に行くわけでもなく、暇があれば外で遊んでいる、いわゆるわんぱく坊主でしたね。大きな声では言えないですが、公園の柿やいちじくを取ったりね(笑)。
両親が共働きで、いい意味で放任されていたので、自分の責任で行けると思えばどこへでも行きました。生まれ育った兵庫県川西市はそれなりに自然もあったので、山や川で「この先、行けるのかな?」というところまで入り込んで行きましたよ。
中條伸び伸び遊べる放課後を過ごしたことで、その後の人生に生きていることはありますか?
古田冒険する心とか、探究心が培われたと思いますね。そして、放課後にお腹が空いたら自分でリンゴの皮をむいたり、パスタをゆでたりして食べなさい、と言われていたので自分でやっていましたよ。もちろん、最初はむき方やゆで方を親に教えてもらいましたけどね。
それに比べると、今の親たちは愛情をたくさん注いでいるけれど、少し過保護気味かな、という気もしますね。時代が違うと言えばそれまでですが、僕らは、野球という競争社会の中で「生き残るぞ」みたいな気概を持って生きてきましたから。とはいえ、同じように気合を入れて必死にやってきた選手たちも、親になると過保護になってますけど(笑)。
子育ての目的は
一人で生き抜く力をつけること
中條少し過保護気味というお話がありましたが、放課後の現場では、失敗を怖がる子どもがとても多いとも感じています。失敗から学ぶこともたくさんあるので失敗させたいと思っているのですが、なかなか一歩を踏み出してくれないもどかしさを感じています。
古田それは、今いる環境の居心地がいいからだと思います。家にいたら親が全部やってくれて快適だから、変化を好まないんです。でも、はっきり言ってそれでは自立しません。もし僕に男の子がいたら、自立してもらうために高校から寮に入れます。つらいことや理不尽なこともあるかもしれないけど、そこで生き抜く力を覚えてほしいんですよ。
日本はこれから、どんな社会になっていくのか不透明です。いつまでも親が助けられるわけではないですよね。ある程度突き放すからこそ、子どもも考えが変わって、「生きていくぞ」と思えるんじゃないかなと思います。
中條同感です。でも、大人の方がなかなかやらせる勇気を持てないと感じています。
古田目的を何にするかですよね。子どもは、いつか親の手を離れて独立していくじゃないですか。そうすると、親の仕事は子どもが社会に出て一人で生きていけるように、自立してもらうこと。どの親も、生き抜く力をつけてほしいと思っているはずです。
一つの方法を選んだら
全力で実践し、
行き詰まったら変えればいい
中條子どもを自立させることには誰も異議はないと思うんですが、それぞれ方法が違うじゃないですか。放課後の現場にいて、そこが難しいと感じています。
古田ある方法で必ずうまくいくんだったら、みんな同じ方法でやりますよね。でも、そうなっていないということは、必ずうまくいく方法なんてないんですよ。でも、方法の種類はいっぱいある。それをどういう風に組み合わせていくかだと思います。
野球も、野村克也氏みたいに理詰めで攻める監督もいれば、故・星野仙一氏みたいな闘将もいて、方法は全然違うけど、2人とも優秀な指導者ですよね。だから、いくつかの方法を知っておいて、行き詰まった時には別な方法を使う、それでいいのかなと思います。
中條それは指導する大人だけでなく、色々な情報に迷わされがちな子どもにも言えることかもしれないですね。
古田今の子どもたちは手にする情報量が多いからこそ、うまくいかないと簡単に「もっといい方法がないかな」と別の方法を探しますよね。探せば見つかると思っているんです。
でも結局は、どの方法を選んでも、全力でやらなければ何の意味もないわけです。一つの選択肢を選んだら、人のせいにせずに腹をくくってやる。そういう指導ができたら、指導者としては正解なんだと思います。うまくいかなければ、そこで別の方法を試せばいいわけですから。
それぞれの立場で子どもたちの夢を応援する2人
子どもに刺激を与えることが、
自分たちの役割
中條古田さんは子どもに野球を教える活動もされていますが、子どもと接する時に大事にしていることはなんでしょうか。
古田基本的には、過保護に扱わない、ということですね。ふざけて僕にパンチをしてきた子がいたのですが、みんなの前でビシッと叱ったんですよ。シーンと静まりかえり、ピリビリした雰囲気になりましたが、後で親御さんに「ビシッと言ってくださってありがとう」と感謝されましたね。
子どもとキャッチボールをする時は、わざと速い球を投げます。ボールを受けた子は、手が痛くてしびれるはずです。でも、それが子どもにとって大きな刺激になる。「やっぱり速いなあ!プロってすごい!」と、ビビッときた瞬間に、子どもはやる気になるんです。僕たちは継続的に野球を教えられるわけではありません。だから、子どもに刺激を与えることが一番大事な役割かなと思っています。
中條指導を遠慮してしまう大人たちも少なくありません。どうすれば放課後の現場に、もっといろいろな大人に関わってもらえるでしょうか。
古田「自分は大した人間じゃないから」とか思ったらできなくなると思います。僕だって野球の実績はあっても、子育ての経験も教育現場での実績もない。だけど、子育ての講演会にも行きます。1,000人いたら、1人か2人でも僕の話に刺激を受けてくれたらいいな、ぐらいの気持ちでやっています。
僕が放課後NPOアフタースクールの活動に参加しているのも、世の中にはいろいろなものがあるよ、ということを地域の人や有名人を呼んで子どもたちに教える場を提供してくれているからです。自分にあまりプレッシャーをかけず、ぜひ気楽に参加してほしいと思います。
自分の人生に、
あらすじを立てたらもったいない
中條最後に、これからの放課後NPOアフタースクールに期待することを教えてください。
古田今の子どもたちは、広がりもチャンスもたくさん待っているのに、「自分は大体こんな感じかな」と、自ら可能性を狭めている子が多いと思うんです。それはすごくもったいないこと。世の中はいいこともあるし、悪いこともある、でも、何が起こるかわからないから人生は面白いんだ、ということを子どもに伝えてほしいなと思います。
僕だって、大学卒業後にプロ野球選手になりたかったけれどなれなくて、社会人野球を続けていたんです。プロに入ってからも、こんなに活躍できるとは思っていませんでした。人生は自分で書いたあらすじ通りにいくわけじゃない。あらすじよりもっとうまくいくこともある。だから、人生にあらすじなんて立てたらもったいない。可能性がたくさんあることを知って、挑戦してほしいですね。
中條本当に、その通りだと思います。
古田人生、思いがけないことが起こります。地震も起きるし、火事も起きる。その中で、どうやって生き延びていくか。立ち直っていくか。放課後NPOアフタースクールさんには、子どもたちが、何が起きても生き延びられる力を身に付けるために頑張ってほしいと思います。