Interview

私×放課後

No.02

Update : 2019.6.10

Chikako Morimoto 森本千賀子 株式会社morich 代表取締役 All Rounder Agent

「放課後に必要なのは、
『場』と、親以外の
第三者の存在」

親子の間に信頼や愛情が通って入れば
きっと大丈夫。
子どもはちゃんと大人の背中を見て、
未来を重ねていると思います。

森本千賀子Chikako Morimoto株式会社morich 代表取締役 All Rounder Agent

滋賀県出身。獨協大学外国語学部英語学科卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。大手からベンチャーまで幅広い企業、また経営者を支援し、累計売上実績は歴代トップ。常にトップを走りながら2児の母としてプライベートも大切にし、現代のスーパーウーマンとして各種メディアからも注目される。2017年に株式会社morichを設立。独立後も多方面に活躍の場を広げている。

聞き手
斎藤麻利放課後NPOアフタースクール 本部マネジャー

約束し、親の許可を
もらわないと遊べない
それが、いまの放課後の現実

斎藤放課後NPOアフタースクールの理事になっていただいてもう何年になりますか。

森本3年目になります。当時、長男は勝どきの自宅から銀座の小学校に通っていました。放課後は勝どきに戻って公立の学童保育に行っていたので、学童が小学校の中にあることのメリットを強く感じていたんです。しかも2年目は、地元の学童にも定員オーバーで入れなかった。なので、アフタースクールはとても理想的な場所だな、と思って理事を引き受けました。

斎藤森本さん自身は、どんな放課後を過ごしていましたか。

お互いに2児の母。子育てと仕事、どちらも大事にしたいと強く願っています。(左:聞き手の斎藤)

森本生まれ育ちが滋賀県の田舎なんですよ。田んぼ、山、川に囲まれて、道を横切るのはサルとかタヌキとかキツネとか。クマが出るからという理由で集団登校したこともありましたね。自然が遊び場で、無意識の中で五感をフルに使っていた感じですね。

そして、年代を超えて近所のお兄ちゃんお姉ちゃんも一緒に遊び、ルールを決めたりしていく中で人間関係を学んだと思います。みんなで仲良くやるためには多少我慢も必要、とかね。

でも今はかわいそうなことに、遊ぶにもまず約束をして、「行っていい?」と親の許可を得て、親が連絡して、菓子折り持たせて、じゃないと遊べない。しかも、遊ぶのはいつも同じ顔ぶれで、コミュニティが狭い。遊びを通して人間関係のつくり方を学ぶ機会が本当に少ないと思っています。

放課後に必要なのは、
「場」と、親以外の第三者の存在

斎藤おっしゃる通りで、うちの子どもたちも遊ぶ相手も場所もいつも限られています。すごく予定調和な世界なんですよね。

森本我が家は子どもに「たまり場にしていいよ」と言っているんです。お菓子とジュース、紙コップ(名前を書くマジックも)を用意しておいて、「塾までの時間、うちで過ごしていいよ」って。片付けのルールを作って、「トラブルがあったら電話してきて」と言ってあリます。場があることが、みんなが集まるきっかけになっている気がします。

斎藤森本さんのように場を作ってあげないと、本当に遊び場がないんですよね。友だち同士でいっぱいぶつかって、トライアンドエラーをして、そこから成長していける場や、人間関係のいざこざも含めて体験できる場があったらいいなと切に思っています。

森本昔は、近所のおじいちゃんおばあちゃんが「焼き芋しよう」とか声をかけてくれて、みんなで葉っぱを集めたり、枝はどう?なんてアイデアを出した子がみんなから認められたりしていましたよね。何か特別なことをするのではなく、日常の延長線みたいな形で習ったり、学んだり。でも、今はそういう場をなかなか作ってあげられない。

そういう意味で、アフタースクールの市民先生はものすごくいい仕組みだなと思っています。本人や親御さんも気づいていないような「こういうことが好きなんだ」というのを発見してあげられる。かつ、余裕を持って見られるからこそほめることができ、それが自信になったりする。親がなかなかやれないことをやってあげられる場があるだけで、子どもの自己肯定感が育まれるんですよね。

住んでいる場所のことを知って
誇りに思い、
地域とのつながりを再構築していく

斎藤私は中1と小3の子どもがいますが、家の中で自己肯定感を育むことってそんなに簡単なことじゃないと日々実感しています。親から見ると欠点だと思うところも、他人から見ると実はいいところだったりするのはわかっているんですが、実際はなかなか難しい。だからこそ、いろいろな大人にいろんな価値観で見てもらうのはすごく大事だと感じています。

森本学校と家で普通に暮らしているだけでは気づかなかったことを市民先生や第三者から得て、視野を広げ、世の中を知ることができれば、それは職業や働くこと、社会への関心にもつながっていきます。キャリアの授業では世の中にはいっぱい仕事が転がっているよ、ということを伝えているんですが、アフタースクールで市民先生と過ごす時間がそのきっかけになっていると思います。

斎藤アフタースクールにとどまらず、地域全体が子どもと関われるようになったらいいと思います。でも今は、地域のコミュニティ自体がないんですよね。

森本地域と子どもをつなげるという意味では、私は我が子の小学校に、銀座の歴史を学んだり、歌舞伎の位置づけなど、地域のことを学ぶ時間を授業に組み込んでほしいとリクエストしています。アイデンティティを確立するというか、自分の地域に関心を持ち、「僕はあそこの学校の出身なんだ」と自慢できるようになってほしいんです。さらに、そういう学習を通じて、第3の大人と関わる機会も増えていくと思います。

放課後は、いろんな人と関わる
大事な時間
親が働いているからこそ、自立する

斎藤両親共に仕事をしていると、子どもが放課後帰宅したときに家にだれもいません。その点で、森本さんは葛藤などありませんか?

森本家で待っててあげて、おやつを用意してあげる生活もいいかな、と思った時もありました。でも、毎日そうだとそれが当たり前になって価値がないわけです。たまに早く帰ってくるから喜んでくれる。むしろ、放課後の時間はとても大事なので、親と1対1よりもいろんな人や友だちから学ぶことも十分に価値があると思っています。

うちでは、帰ってきたら脱いだものは洗濯機に入れることや、おやつを食べる時間とかルールを決めているんですが、自立への道はそこから始まっているとも思っています。親がいないからこそ、自分でやるしかないんですよね。

斎藤放課後に親が家にいないということをプラスにとらえる考え方は、多くの働く女性が勇気づけられると思います。

森本1ヶ月ほど前、小4の次男が「引っ越す友だちの送別会を自分たちでやりたい」と言い出したんです。そしたら自分たちでルールを決めて、準備して、私の手伝いなしで見事にやり切りました。私は基本的には「ノー」は言わず、「いいんじゃない?」というスタンスなんですが、そうしていると、自分たちで決めてやるというのが当たり前になってきた気がします。

市民先生は斜めの存在だからこそ、
遠慮なく叱り、
包み込んでくれる存在で
あってほしい

森本学校での教師と生徒という関係は、すごく大事だと思うんです。私にとって、いろんな教えをいただいた先生は財産ですし、今の自分にもつながっています。一方で、友だちでも、親でも兄弟でもないアフタースクールの先生って、やはり特別な存在だと思います。

さらにアフタースクールには、日常では出会わない、第三者的立場の市民先生がいる。親や先生には話せないけど、斜めだからこそ聞けるし、助けを求めることもできる、ということがあると思うんです。市民先生は、遠慮なく叱ってあげたり、時には包容力で包んであげられたりする存在であってほしいです。

斎藤今の公立小学校は、先生と生徒の距離感が遠くなってきているので、アフタースクールは子どもと真正面で向き合って、そこを補える場でありたいですね。そして、どの子も認めてもらえるように出会いを広げ、子どもが夢中になれる場所、興味を深められる場所にしていきたいです。

森本今の子どもたちが大人になったときには、就職した会社で定年まで過ごすとか、1社の中だけで仕事が完結するということはなくて、さまざまな利害関係者や社外の人たちとプロジェクトを組んで仕事をするスタイルになっていくはずです。

だからこそ、学校同士でもっと交流をしたり、放課後の時間にいろんなタイプの子どもと交わったり、一つのものをみんなで作ったりする経験ができるようになるといいなと思っています。アフタースクールの今後の発展、全国への展開をますます願っています。

自分は一般的なワーキングマザーの女性と比べると特に仕事のウエートが高い方の母親だと思いますが、一生懸命仕事をすることで親が頑張る背中を見せることができるし、子どもの自立が育まれていく面もあると思っています。多くの女性が仕事と子育ての両立に悩んでいるかと思いますが、親子の間に信頼や愛情が通っていれば、きっと大丈夫。子どもはちゃんと大人の背中を見て、未来を重ねていると思います。堂々と自分の信じた道を本気で進んでいけば、必ずその想いは通じていると信じています。