放課後NPO的・組織開発ワークショップの生まれ方②|担当者の願いと、場の養分
放課後NPOアフタースクールでは、常勤職員全員が集まって、1日かけて事業のこと・組織のこと・仲間のこと・自分のことを考える、「全体会」を定期的に開催しています。社員全員が参加する「全社会」にあたるもので、放課後NPOでは全体会の位置付けを以下のように定義しているそうです。
対話を通して組織の方向性・戦略や、組織で大事にすることについて年間テーマを持ち「対話」を中心に場をつくる
社員同士の対話をベースにした全社会の事例も見かけるようになってきたが、放課後NPOの全体会議は、一味ちがうような・・・
今回は、2024年5月に行われた全体会の設計・運営に携わった、広報・経営企画・人事の3名の担当者への振り返りインタビューを実施。そこから、放課後NPOなりの組織開発ワークショップの背後にあるものをときほぐしていきます。後編では、担当者たちの願い、そして対話の場、ひいては放課後NPOそのものに流れる「養分」はなんなのかを探ってみます。
*前編はこちら
話した人
すずき:感情を言葉や非言語表現にし、伝導していく探究者。えんしのを放課後NPOに出会わせた張本人。広報・PRと組織開発担当。
くりばやし:堅苦しくつまらないものをいかに面白く仕立てるかの探究者。経営企画と組織開発担当。
かとう:働くひとが「心が動く」ことから仕事に取り組み、社会が良くなっていくことを目指している人。人事と組織開発担当。Certified Professional Co-Active Coach (CPCC)
聞いてまとめて書いた人
えんしの:謎のボランティア。すずきの友人。2023年11月の全体会でボランティア・カメラマンを依頼される。今年は当日の予定が合わず、事後記事のライティングの依頼をされた。本業はカメラマンでもライターでもない。
誰のことも、置いていきたくない
えんしの:前半では、「いちごの収穫祭」というコンセプトが生まれた背景から、全体会の構成と各ワークの仕掛け、そしてそれらの意図みたいなことを聞いてきましたね。皆さんがワークショップに込めている意図とか想いが、なんというか「農法」みたいに対話や体感を耕しているなと思いました。そこにはやっぱり皆さん自身の場に対する願い=ニーズが深く根ざしている気がするんです。それって、なんなんでしょうね・・・
すずき:なんなんでしょうね。
くりばやし:ね。
かとう:誰の気持ちもおいていかない、かなぁ。
すずき:そう、それかも。
かとう:会のはじまりを、参加者全員で半円になって座る形にしたんです。そうするとお互いの顔が見えるじゃないですか。それぞれがいろんな感情を持ってこの場に集っていて、だからこそ誰かにスポットライトを当てるんじゃなくて、一人ひとりを、それぞれの気持ちを大事にしたい、という願いが現れていたように思うんです。
すずき:「あの人が、この表情でいてくれるんだ」って気づけることが、私たちの安心感にもつながっていた気がするんですよね。「なんなんだ、このあったかさは」って思うくらい。
くりばやし:組織が節目を迎えて、そして経営判断としての大きな意思決定があって...。そこに対する反応もさまざまだろうな、と想像していたんです。しかも場合によっては、「こんなふうに捉えている人もいるの?!」とびっくりする人もいるだろうなって思っていました。だからこそ、互いの顔が見えるって大事だったなと改めて思うんですよね。
すずき:前編で話した「運命のペア」を決めたのも、それぞれの感情を持ちながらも、この場では安心して話すことができるように、という願いがあったからなんです。
くりばやし:その一方で、15周年という節目はちゃんとお祝いしたい。経営体制が変わることも、組織にとっては大事なタイミングだし、しっかりお祝いすることで、前に進んでいくエネルギーを持ってもらいたかったんです。とまどいも、祝福も、そのどちらも両立させながら、その場にいる人全員の気持ちを置いていかず、そして最後には「明日からまた前に進もう」と思って終われるようにしたかったんです。
すずき:本当に入念に場の設計をしましたよね。私たち3人は、くりばやしさんが経営企画、かとうさんが人事、そして私が広報・PRと、いろんな人の声を聴いていく役割を持っています。大きな変化に対する「それぞれの声」はもちろん、意思決定を図った経営メンバーの「願い」も同時にキャッチしていました。だから、お互いの思いを「ちゃんと媒介する」ことは、私たちのこだわりだったと思うんです。
かとう:午前中のワークで、祝福の種と嘆きの種を畑にまいて、それを眺めて歩くってワークがあったじゃないですか。「運命のペア」でいっしょに読んで周ってもらったんですよね。「こんなニーズもあるんじゃない?」って言葉を交わしていたり、「これはどういうことだ?」と思って立ち止まってみたり、いろんな姿があったんです。誰かが書いたことをことさら取り上げたり評価づけたりせず、みんなの感情を等価値に扱った。「誰も置いていかない」という願いを、ここにも込めていました。
すずき:午後にやった、心に決めた相手の動きに合わせて自分も動くワークにも、「誰も置いていかない」って思いが現れていたかもしれませんね。組織に勢いがある時、自分自身もそのスピードに乗れるとは限らない、逆に自分に勢いがある時は、組織の立ち止まりをもどかしく感じることもあるでしょう。そうやってそれぞれペースも感じ方もちがうみんなが、共に遠くへいくことの難しさと、だからこそ出会えるかもしれない未来の可能性を一緒に見つめたかったんです。
くりばやし:互いをおもんばかれる組織として前に進みたいというのが、この場の願いだったのかもしれません。
えんしの:あぁ、ほんとに「誰も置いていかない」んですね。
願いを曲に乗せて
えんしの:突然なんですけど、いちごって野菜なんですよね。
すずき:へぇ!
かとう:そうなの?!
くりばやし:知らなかった。
えんしの:家庭菜園でいちごを育てたことがあったんですけど、あれって冬に仕込むんですよ。霜が降りないように大事に育てていくんですよね。みなさんの話を聞いていて、3人がとても大事にいちごを「育てているなぁ」って感じたんですよね。それぞれの「痛み」を大切に扱いながら、「祝福」と「エネルギー」につなげていこうとする感じがして。
すずき:なんだろう、いちごを育てたのは私たちというより、その場にいたみんなだと思うんですよね。
えんしの:あぁ、それはその通りですね。一方で、土壌がちゃんとあたたかく耕されているとも思うんです。3人の「願い」があってこそなんじゃないかな、って。
かとう:ところでなんでいきなり「いちごが野菜」って話を?
えんしの:それはほら、すずきさんがこのインタビュー中しれっとBGMを流していて、緑黄色社会の「Mela!」が聞こえてきたからですよ。どうしても頭半分で「緑黄色野菜」って言葉が湧き出ちゃいまして。
くりばやし:あぁ、そういうこと!
すずき:そうそう、BGMには結構こだわってて、ワークごとにテーマを定めてプレイリストを作ってるんです。ほら、こんな感じで。
えんしの:ほんとだ、進行のフェーズごとにとことん楽曲を選びにかかってますね。
くりばやし:さっき話題に上がった緑黄色社会の「Mela!」も、心に決めた相手の動きに合わせて動くワークに合わせて選んだんです。
すずき:歌詞の中に「ギブとテイク」って言葉が出てくるんですよね。自分がGiveできる人を1人目、自分を導いたり助けたりしてくれる人を2人目と定めたワークにぴったりだなって思って。あと、
ほら気付けば手を握っている ほっておけない
そんなに荷物を背負い込んでどこへ行くの
ほんのちょっと僕にちょっと預けてみては?
こんな僕も君のヒーローになりたいのさ
って歌詞も、私たちの願いを代弁してくれている気がして。
かとう:そうだったんだ!
すずき:歌詞に紐づけた、といえば、最後の最後で振り返りをする時間のBGMに選んだのが、幾田りらさんの「Answer」だったんです。最後が、
このままどこまで 歩いていくんだろう
鏡にうつる僕が頷く
未完成なままでいい 足りない欠片探して
日々をまた紡いでいく
って歌詞なんです。足りないところやかけているところもあるけれど、今そのままの状態であっていいんだってメッセージが、この日の読後感のような感じがして。
くりばやし:完璧じゃないけれど、明日からも前を向いていこうという感じをみんなで味わえたらと思って。そしたら、ある人から「15歳って、そういう時期だよね」って言われて。私たち放課後NPOも、まさしくそんな時期にあるんだって思ったんです。
かとう:一方で、未熟さを言い訳にしちゃいけないなとも思うんです。
「これくらいしかできないじゃん」とか、「そんなこといわれたってできない」とか、そう言っていても先に進めない。今の自分自身のことをちゃんと知ることと、組織としてのこれからを考えることをそれぞれ分けて考えていくということは、全体会の日だけでなく、日常においても起きていくといいなと思います。
えんしの:私も、ワークショップのファシリテーターをするときには、ワークや進行の雰囲気に合わせてBGMを選んでいますが、ここまで意図を持って選曲することはそうそうないです。やっぱり、願いがこもっていますね。それが場を潤わせて、参加者に染み渡っていく感じがします。
「くだらない」こそが養分
えんしの:ですけどね、アイスブレイクのプレイリストにある松田聖子さんの「いちご畑でつかまえて」は、確実に狙いにいったでしょう。それを選曲するセンス、さすがです。
すずき:「いちごの収穫祭」がコンセプトですから。アイスブレイクの時間にピッタリじゃないですか!
かとう:前編でも言ったけれど「一期一会」もかかってますからね。運命のペアも「一期一会」の出会い、みたいな感じがありますよね。
えんしの:もう、「言葉遊び」というか、ダジャレじゃないですか。そういうの、私、大好きで。
くりばやし:あら、うれしい。
えんしの:いや、失礼に聞こえたら申し訳ないんですが、2023年11月の「妖怪」といい、今回・2024年5月の「いちご」といい、なんというか、「くっだらねぇなぁ」って思うんです。でもそれって僕にとってはとてもポジティブな意味で使っているんです。どうしても笑っちゃう感じというか、ワークショップの中身は大真面目なんだけど、それを真正面から扱うのではなく遊び心を利かせているというか。
すずき:それ、私たちにとって最高の褒め言葉ですよ。
くりばやし:そうそう。「くだらない」と思うようなことの中にも、いや、そういうことの中にこそ、学びや気づきがいっぱいあると思うんです。
かとう:放課後NPOって、子どもたちの放課後に関わっているからか、「遊び」や「遊び心」を大切にできる組織なんだと思います。そうじゃなかったら、「組織の今」に向き合ったワークの後に運動会で大はしゃぎするなんて構成はなかなかできないでしょう。
えんしの:そう、そういった「くっだらねぇなぁ」と笑っちゃうようなことも真剣に扱える雰囲気が、すごいなと思うと同時に、ステキだなとも思うんです。たとえば、前編で登場したけれど受け流しちゃった体制変更のセレモニーで使っていた「うまいく棒バトン」。あれ、誰も「はぁ?」とかツッコミ入れたりしなかったんですか?
くりばやし:企画構成が決まって、経営メンバーに構成案を見せた時点で、「うまいく棒バトン」のことも書いておいたんです。事務的にセレモニーの流れを説明する中でも、さらっと「うまいく棒バトン」ってワードを出したら、代表の平岩さんも「うんうん、一人ひとりへのバトンってことだよね」と意図まで含めてものすごく自然に受けとってくれていました。当日のみんなはちょっとニヤニヤしてましたね。
すずき:放課後の象徴的なアイテムだったからこそ、未来へのバトンパスを表す時には、リレーバトンじゃなくてうまい棒にしたかった。マイクにもなるし、「うまいく棒バトン」ええやんだよ。
えんしの:いやぁ、ますます「くっだらねぇなぁ」って思っちゃうんですが、コンセプトを成しているものごと、言葉遊びから生じたアイテム、そんな「遊び心」をとても大切にしている。そして徹底的にワークの中に落とし込んでいる。もう「さすが」という言葉以外になにも見つからないです。
かとう:でも確かなのは、その「遊び心」を徹底的にというか、手間暇をかけてというか、作り込んでいるということなんだと思います。
えんしの:手間暇かけて育てたからこそ、いちごは甘く育ったんでしょうね。
くりばやし:それはそうかもしれません。「くだらない」ことも、大真面目なことも、手間暇をかけて考えてつくり込んできたからこそ、参加した放課後NPOのみんなの反応が、甘みになって返ってきた感じがあります。
すずき:いろんな人が、終わった後に声をかけてくれたよね。「うれしかった」とか「よかった」と、高揚感をもって言ってくれたんです。今後の希望に溢れるような思いだったし、組織に関わる一人ひとりの愛を感じた瞬間がとってもスイートでした。
えんしの:甘みって、養分が必要じゃないですか。それってなんなんでしょうね。
くりばやし:「くだらない」が養分だと思うんですよ。そうじゃないと、ワークショップをしつらえる私たちのエネルギーが湧いてこない。
すずき:そう。楽しいことの中にこそ気づきや学びが溢れている。だから一見「くだらない」ようなことにどれだけ真剣に向き合えるかが、心を動かす時間につながる気がしています。
かとう:組織の大きな変化がある中で、それでも前に進んでいくためには、明るく楽しく遊び心を持っていたいし、頑張っていることは祝福したいじゃないですか。もちろん前が向けない日もあるかもしれないけれど、湿っぽいだけにならないでいられることが、大事な気がします。
えんしの:そうか。「くだらない」はお三方の養分としてずっと流れていて、そうして耕されたふかふかで安心できる土壌をベースにして、ちゃんと暖かい日照りのような仕掛けを用意していく。そうすることでいちごはより甘く育っていくんですね。
組織が大きく変わる状況にあって、一人ひとりの中にある感情もさまざまであることを大切に扱っていきたいという姿勢が、3人の担当者の言葉の端々から感じられました。「誰も置いていかない」という願いを持ちながら、組織の将来を大真面目に本気で考えてワークショップを作ってきた3人が、その一方で大切にしてきたのは「遊び心」や「くだらなさ」だった。そんなところに、勝手ながら放課後NPOらしさを感じました。
思いがたくさん詰まった「いちごの収穫祭」から、気づけばもう半年。そうしてこの冬、次の全体会を迎えた模様。さて、担当者たちが次に繰り出した仕掛けはいかに。
(完)
書いた人:えんしの(遠藤忍)
話した人:鈴木香里・栗林真由美・加藤夕子
写真:塩成 透