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【ご報告】地域企業連携 編:自治体担当者向け勉強会『こどもまんなか社会』をSDGs×公民連携×放課後でつくろう!

2023年4月から、こども基本法が施行され、こども家庭庁が発足しました。これにより、各自治体では「こどもまんなか社会」の取り組みが求められています。そこで、放課後NPOアフタースクールでは、子どもを中心とした社会づくりには欠かすことのできない、行政と地域企業との協働事業の実例をご紹介しながら、共に何ができるかを学び合う勉強会を開催しました。

〈Day1〉地域企業連携 編
子どもとつくる 地域の産業・公民連携・SDGs
日時:6月22日(木)15:00~17:00
会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)

勉強会1日目は、当団体代表・平岩国泰が現在の社会における子どもたちの状況をお話しした後、地域のものづくり企業と共に子どもにクリエイティブな体験の場を提供する大阪府八尾市「みせるばやお」の創設に携わった松尾泰貴さんによるゲストトーク。さらに「みせるばやお」の代表を務める木村祥一郎さんを加え、3人でのパネルディスカッションも行われました。
当日は関西だけでなく、愛知県内の自治体からもご参加いただき、8自治体のご担当者が今後の取り組みに向けて、様々なヒントが詰まった学びの時間を過ごしました。

■オープニングトーク「こども家庭庁の動向と子どもに社会の力が必要な理由」
 放課後NPOアフタースクール代表理事 平岩国泰

平岩国泰:1996年株式会社丸井入社、経営企画・人事を担当。長女の誕生をきっかけに2005年、放課後NPOアフタースクールの活動を開始。2013年より文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年より渋谷区教育委員、2019年より新渡戸文化学園理事長。

最初に登壇した平岩は、当団体の代表だけでなく、教育委員や学校の理事長も兼務しています。そうした立場から、いまの子どもたちに関わる4つの大きな課題を提示しました。

①小学生低学年に増えているいじめ(重大事態の発生件数が昨年度、過去最多に)
②小中学生の不登校(1クラスに1人は必ずいるほどの数に増加)
③小学生による校内暴力(8年前の5倍の件数に増加)
④小中高生の自殺(昨年、過去最多に)

そして、課題の中でも「少子化が加速するこの社会で、自ら命を絶ってしまう若者が多いのは大問題じゃないかと思います」と話し、その原因の一つとして考えられるのが「精神的な幸福度」と「自己肯定感」が他の国と比べて著しく低いことではないかと関連データを示しました。

さらに「自己肯定感」が低いのは、学校や地域が子どもたちの「居場所」になっていないことが大きな理由であり、「居場所」の数が増えるほど自己肯定感や将来への希望が高くなっていくというデータが出ていることも。
問題は、どうやって一人ひとりの「居場所」を増やしていくかということです。

平岩「家庭や学校でなんとかしなさい、というのはもう現実的にかなり難しいと思います。社会全体でどう変わっていけるかという視点に切り替えていかないといけないでしょう」

今年4月にこども基本法、こども家庭庁が同時にスタートし、「こどもまんなか」というキーワードが生まれました。「まず子どもの声を聴く」というスタンスは、様々な課題解決のはじめの一歩。こども家庭庁では、子ども・若者の居場所づくりにおいて「居たい・行きたい・やってみたい」という視点を大切にしています。

「単にスペースを用意してあげればいいということではなくて、子どもの声に応えていく。今日のテーマにある地域と連携する企業というのは、この『やってみたい』を叶える点において、とても強いと思います。子どもたちが学校ではなかなかできないことを学べる時間を、いろんな企業と協力して増やしていけたら、本当に素晴らしい。いかに未来の楽しみを子どもたちにつくっていけるか、皆さんと考えていきたいなと思っております」。そんな言葉で平岩は話を締めくくりました。

■ゲストトーク「大阪府・八尾市『みせるばやお』に見る子どもと盛り上げる地場産業」
 株式会社友安製作所 ソーシャルデザイン部担当執行役員 松尾泰貴さん

松尾泰貴さん:2008年八尾市入庁、秘書課に配属後、産業政策課にて政策立案、次世代経営者養成等に従事。経済産業省近畿経済産業局に出向し、ベンチャー政策に携わった後、八尾市に戻り、みせるばやお事業を立ち上げた。現在は株式会社友安製作所ソーシャルデザイン部担当執行役員。豊富な経験を生かし、企業人としてまちづくりのプロデュースを行っている。

続いて登壇いただいたのは松尾泰貴さん。2008年に八尾市に入庁してから13年間、行政マンとして働き、地元企業と共に世界初のものづくりエンターテイメント施設「みせるばやお」を立ち上げました。

このプロジェクトは、商業施設の空きスペース再利用を目的に、地方創生推進交付金を活用し、2017年にスタート。松尾さんが地元の中小企業100社を1社ずつ訪問するところから始まりました。しかし、企業同士の横のつながりがほとんどないため、郷土愛も感じられず、反応は良くなかったといいます。

松尾さん「ここには何もないとか、まちが嫌いとか、自分のまちに不満を持っている。それなら、自分たちで地域を良くする場所をつくればいいじゃないか、と。僕も八尾市の行政マンとして、自慢できる、誇りに思えるまちに変えたいと思いました」
その熱い想いで各企業に何度も足を運び、語り合い、ゼロから一緒にまちづくりに取り組んだそうです。

努力が実を結び、「みせるばやお」(見せる・魅せる+場+八尾)は2018年8月にオープン。ものづくりの体験ワークショップを中心に開催することで、高い技術を持つ地元企業をまちの人々に知ってもらい、子どもたちが喜んで集まる場所が生まれました。

松尾さん「掲げているのは『まち、ひと、こうば、くらしを元気にする』というシンプルなビジョンです。子どもたちの喜ぶ様子を見て、大人も元気になり、まちが元気になっていく。そんないいサイクルが続いています」

オープン当初は35社でスタートしたみせるばやおですが、その反響は大きく、2カ月後には100社以上、現在は135社が参加しています。

この「みせるばやお」は3年連続で、世界中に読者を持つ経済誌『Forbes JAPAN』に「YAO MODEL」として紹介されました。「行政主導ではなく、地域と共につくり上げたからこそ、成功モデルになった」と松尾さんは話します。また、今年1月には、内閣総理大臣表彰「第9回ものづくり日本大賞」を受賞しました。

松尾さん自身も「みせるばやお」プロジェクトをはじめとする実績により、2019年、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」に選出。そんな松尾さんの明るい笑顔と軽妙な語り口は参加された方々を惹きつけ、熱心にメモをとる方もおられました。

■パネルディスカッション
木村祥一郎さん×松尾泰貴さん×平岩国泰

ここからは株式会社みせるばやおの代表を務める木村石鹸工業株式会社社長の木村祥一郎さんに加わっていただき、松尾さんとのトークセッション。平岩がモデレーターとして、お二人にいろいろなお話を聞きました。

木村石鹸工業は八尾市で創業して来年100周年ということで、会場の皆さんから温かい拍手が起こります。やさしいイメージの木村さんですが、松尾さんが「みせるばやお」プロジェクトの話を持ちかけたとき、「行政も八尾のまちも嫌いだから、興味ない」と話半分で聞いていたそうです。

木村祥一郎さん(写真右):木村石鹸工業株式会社 代表取締役/株式会社みせるばやお 代表取締役社長。1995年、IT企業を立ち上げ、商品開発やマーケティングを担当。2013年、家業の木村石鹸工業株式会社へ。2016年、4代目社長に就任。稟議書の廃止、「自己申告給与制度」の導入、社員自らが組織づくりを行う「じぶんプロジェクト」等、自立型組織改革をめざしている。

木村「でも松尾さんがかなり熱意を持って、この会社の人は木村さんが出たら参加されると言っていますとか言われて。半分騙されたみたいな感じでした(笑)」
松尾「面白い企業がたくさんあるのに、横のつながりがない。もったいないので、飲み会ベースでマッチングしたら、あっという間に仲良くなっていきました」

しかし、規模も業種も異なる企業が集まれば、利害の一致は難しいもの。いざ何をしたらいいのかと悩みました。そんなとき、「子どもに仕事を見せ、体験してもらい、喜んでもらう」というテーマが飛び出し、全員が賛成して一致団結。中小企業のコミュニティが生まれ、「みせるばやお」を活動の拠点にその絆も深まっていきました。

「とにかくやってみたら面白かった」と木村さん。面白いだけではなく、社員の育成や人材採用などに大きな効果もあったと教えてくれました。

木村「社員がやりがいを感じてくれたんですよね。ワークショップで子どもに教えるためには自分が理解しないといけませんので、めちゃくちゃ勉強する。それから、ワークショップでうちの存在を知ってくれた学生が、地域貢献している会社だからと入社してくれる。ものづくりのまちとして、八尾のブランドが認知されると、地元企業の価値も上がるんだなと感じました」

松尾さんに行政の立場で苦労した点を尋ねると「八尾市と地元企業さんで費用は折半して運営する形ですけど、公共施設にはしないようにするのが大変でした」。公営にしてしまうと、行政に責任が生じるため、イベント内容に対してもルールが厳しくなりがち。そうしたことに縛られず、自由に使ってほしかったからだそうです。

みんなで楽しんで育ててきた「みせるばやお」のワークショップには、来場者数もどんどん増加。3年連続で体験にやってくる子どもたちもいて、この先、地元の就職率アップにも期待が持てそうです。

■グループディスカッション~交流会
ここで、勉強会に参加された方々を3つのグループに分け、これまでのお話を聞いて印象に残ったことなどを語り合っていただく時間を設けました。
各グループには当団体スタッフが入り、グループ内のお話をまとめて全員にシェア。各グループから、こんなお声をいただきました。


グループ①
・これから取り組みをするにあたって、企業と子どもをつなぐという具体的な事例がそのまま参考になりました。
・地元を出て行った若い世代に戻ってきてもらい、人口流出に歯止めをかけたい。そのために何ができるかと考えたとき、共通のテーマとして、子どもを中心とした取り組みはいいなと気づきました。
・行政はルールに縛られるところが大きいですが、それをどう解釈するか、どう突破していくかというところで、松尾さんのお話を聞いて勇気づけられました。


グループ②
・子どもたちを喜ばせたい、そんなまちづくりを考えていたので、バックグラウンドも様々な方がいらっしゃる地域の中で、子どもをキーにするというお話がとても刺さりました。
・「みせるばやお」が子どもたちだけでなく、就職世代にも響く場所になっていることがわかりました。
・「みせるばやお」のワークショップに興味が湧きました。プログラムをどう組み立てているのか、現場ではどんな苦労があるのかなどをもっと知りたいです。


グループ③
・現在も地域の方々とプログラムを実施しているのですが、企業さんが入ってくださるという可能性に気づきました。
・企業との連携で市町村のメリットはあるのかと思っていたけれど、今日のお話を聞いて、あると気づいたので、ぜひトライしてみたいです。
・子どもを軸にすることで、関係省庁や産業界など、いろんなところとつながって取り組みを進めることができるのではと思いました。

ディスカッションの後は交流会です。参加者の皆さんは全員と名刺を交換しながら、積極的にコミュニケーションをとられていました。ゲストの松尾さんや木村さんとトークが盛り上がっている姿も見られ、会場のあちこちから楽しそうな笑い声が。熱気あふれる皆さんの様子に、この勉強会に対しての満足度の高さを感じることができました。




■参加者にお話を聞きました!
滋賀県総合企画部 企画調整課 企画第二係 主事
上坂崇人さん

滋賀県でも今年度から「みせるばやお」プロジェクトに近い事業を、放課後NPOアフタースクールさんにご協力いただいて、スタートする予定があります(※放課後NPOアフタースクールでは、2023年6月より滋賀県総合企画部企画調整課より、「SDGsまなびとイノベーションプラットフォーム」事業の運営を受託。詳細は追って皆さんにもお知らせ致します!)。SDGsへの取り組みの一環で、企業と子どもを結んで、体験の機会を増やそうというものです。今日のお話で特に参考になったのは、ゼロから企業さんとつくり上げたことで、成功モデルになったというところですね。皆さん、やっぱり当事者意識があるから熱心に活動していただけるんだろうなと。滋賀県は同じ体制というわけではないのですが、平岩さんのご意見も伺いながら、そんなプラットホームにしていくのが大事なことだなと思います。
木村さんがインナーブランディング、会社の経営にとってもいい側面があったとおっしゃっていたので、県内の企業さんにもこの事例をぜひ紹介していきたいです。

京都市子ども若者はぐくみ局 子ども若者未来部育成推進課
小野寺亮太さん

「こどもまんなか」という言葉が世の中に出てから、その社会をどうやったらつくっていけるのかなっていうことをいろいろ考えていました。
京都は日本で最初に小学校ができたところで、「まちづくりは人づくりから」と、当時はみんなでお金を出し合って小学校をつくったという歴史があります。それがいまは人口減少が著しく、活力の低下が懸念されています。その中で、子どもを真ん中に据える社会づくりに本気で取り組んでいかないといけないという危機意識があったので、今日はすごく勉強になりました。
「みせるばやお」を立ち上げた松尾さんと木村さん、行政と民間の方が同じ目線で話されていたのが印象的でしたね。ゼロから一緒につくることで信頼関係もできて、それがまちづくりの原点になっていたんだろうなというのが大きなヒントになりました。

今回の勉強会を終えて、平岩も「昔の日本には寺子屋があり、長屋文化があって、地域で子どもを育てていました。子どもとつながることで、大人も社会も幸せになっていく。自治体の方々に、いまもできることがまだまだあるとお伝えする機会が持ててよかったです」と参加者の皆さんに感想を伝えさせていただきました。

勉強会にご参加いただいた皆さん、本当にありがとうございました!

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