閉じる

Blog活動ブログ

放課後NPOアフタースクール10周年に寄せて

2004年6月30日
私は人生で初めて子どもを授かりました。
赤ちゃんは、思っていたよりもずっと小さくてやわらかくて、そして温かいものでした。


父親は実際に我が子を目にした瞬間から、急速に親としての実感がわいてくるものなのかもしれません。私もそうでした。
新たな生命が、自分の子どもが、この世界に生まれた喜びは、まさに足元からフワッと浮かびあがるような気持ちでした。もう一方で、猛烈に自分がこの世に生きている実感もありました。

普段は私の携帯に電話をかけてこなかった父からも電話がありました。
「おめでとう、よかったな」
いつ知ったんだろう?まぁいいや。
いつにもまして弾んだ父の声、記憶の限り初めて受けた父からの携帯電話、
そのことがまた私の心で特別感を強めました。

生まれたばかりでねむっている娘の寝顔を見ていて思わず約束しました。
「あなたが小学生になるまでになんとかします」

なんとかするのは“放課後”のことでした。
その当時、ずっと気になっていた“放課後”の社会課題に取り組むことを娘に誓いました。
正確に言うと嬉しさと勢いで誓ってしまう自分がいました。
ずっと気になっていたけど自分に何ができるか分からなかったし、取り組む決心もつかなかった“放課後の課題”、私は自分の心の逃げ道を前向きに絶ちたかったのだと思います。

でも、その約束は言葉にはしませんでした。
赤ちゃんに言ってもわからないことはもちろんでしたが、それ以上に成し遂げる自信がなかったのが本音です。できない約束は口にしたくない性格なので、思わず言葉が出なかったのだと思います。
でも心の中とはいえ、父親が娘に初めてした約束、私にとっては必ず果たしたいものでありました。

2009年6月10日
放課後NPOアフタースクールはそれまでの5年間のボランティア活動を経て、法人化されました。
法人化は私にとって大きな決断でした。活動を始めること以上に遥かに大きなものでした。ボランティアで活動しているうちはどこかトライアル的で、個人的な活動でした。
「世の中の役に立たないならやめるか他の方法に切り替えよう」と思っていたのは、言い換えると「ダメならやめられる」という自分への言い訳でした。弱い私はまだ逃げ道を作っていました。
法人化はまさにそんな助走期間からの離陸でした。逃げ道からの決別でもありました。
法人化するからには私が仮に倒れても組織として続けていく世の中への決意表明だと考えていました。だからこの2009年6月10日に本当に私の覚悟が決まったのだと思います。

2011年3月31日
この年は娘が小学生になる春でした。
娘が生まれた日に「あなたが小学生になるまでになんとかします」と約束した春です。
娘の入る小学校にアフタースクールを開校することは申し訳ないことに実現できませんでした。自分は残念な父親です。
しかし、その頃には娘だけではなく、「日本中の子どもたちにアフタースクールを届けたい」という夢がますます昇華していました。
この日をもって私は15年勤めさせていただいた会社を退職させていただきました。
退職直前の3月11日に東日本大震災に襲われました。会社は節電のため毎日真っ暗でみんなが復興に必死でした。そんな中、決まっていたこととはいえ自分だけが逃げ出すみたいで情けない気持ちに拍車がかかりました。当時のことは震災の悲しさもあり全ての想い出がグレーがかっています。心細い思いも強くありました。しかし、そんな自分に灯りをともしてくれたのはいつも子どもたちであり、保護者であり、学校の先生であり、応援してくださった皆様であり、仲間でありました。
1週間ほどして、娘は小学生になり、私たちの初めての開校である新渡戸文化アフタースクールが始まりました。

2019年6月10日
放課後NPOアフタースクールは10歳の誕生日を迎えました。
これまでに20校のアフタースクールを開校しています。毎年のべで20万人以上の子どもが参加してくれています。200社以上の企業の皆様とも協働することが出来ています。
今では毎日がグレーがかっていません。色鮮やかな景色に子どもたちの弾けるような笑顔があります。見守る私たちにも穏やかな笑顔があります。


私たちはこのように10年を祝う機会を持たせていただいておりますが、一方で社会を見渡すと、子どもが犠牲になる事件が後を絶たない状況です。そのような事件を目にするたびに強い無力感や虚脱感があることも事実ですが、「微力だが無力ではない」と自分たちを奮い立たせています。まだまだ社会を変えるにはインパクトが小さい私たちですが、同じ志の皆様と力を合わせて、これからも全力で頑張ります。

組織としてはまさに人間の10歳の誕生日の感覚です。
10歳の誕生日は小学4年生で迎えます。
小学4年生は、まだまだ幼い面があります。でも、人格は少しずつ出来始めております。将来の夢も実感を持って語り始めています。そしてなんと言っても伸び盛りです。
私たちもこれからどのようにも成長できる団体だと思っています。

この世に赤ちゃんが生まれて10歳になるまでに、多くの大人に見守られて限りない愛情を注いで育くまれていることと同様に、私たちも本当に多くの皆様に見守られて応援いただき、この10周年を迎えることが出来ました。
どんな言葉でも表現が出来ないほど、心よりの感謝を感じております。

ここまでの10年、ボランティア時代も含め15年、
かかわってくださった全ての方に感謝を申し上げます。

「日本全国の放課後を安全で豊かにする」
この目標に向かって、これからも一同頑張ります。
私自身も娘との約束を遅ればせながら果たすことに全力を尽くします。

皆様、これから青年期に向かっていく私どもを今後ともどうか見守りご指導ください。
どうぞよろしくお願いいたします。

2019年6月10日
放課後NPOアフタースクール
代表理事 平岩 国泰

Recently最新の記事