【オランダ視察①】イエナプラン小学校について
代表理事の平岩です。
「世界で最も子どもが幸福な国」
とオランダはしばしば言われます。
2007年にユニセフが行った
「子どもの幸福度調査」で、オランダは総合1位だったのです。
日本は同調査で下位、
子どもが「孤独を感じる」という項目で
断トツで1位になってしまいました。
世界の中で
「子どもが幸福を感じている」とはとても言い難い状態です。
私たちの活動において、
その秘訣をオランダの教育の中から探っておこうということだったのです。
まずは今回の視察の中心である、
「イエナプランの小学校」についてご紹介します。
先に少しだけオランダの概観を記載します。
・人口:1660万人 (東京より少々多い)
・面積:4万1千km2 (九州くらい)
・首都:アムステルダム
・チューリップ、チーズ、風車
北欧は最近、
オランダの教育も最近注目を集めるようになってきました。
なぜならオランダでは近年
「オルタナティブ教育(先進的な教育)」が花開いていると言われるからです。
モンテッソーリ、フレネ、シュタイナー、ダルトン、
そしてイエナプランです。
・学校選択の自由(学区はない、家庭が自由に学校を選択)
・学校設立の自由(200人集めれば誰でも学校を設立出来る)
・教育方法の自由(教材や教育方法は学校が決める)
このような自由な教育環境で、
様々な先進的な教育が花開いているわけです。
もちろんオランダの中で、
このようなオルタナティブ教育は全体としてはまだ少数派で、
オルタナティブ教育を全部合わせて10~20%です。
しかし、この少数派がきちんと尊重され、存在出来るのがオランダの良さで、
それが全体にもよい影響を与えているのです。
イエナプランの小学校自体は少なくても、
その考えを一部取り入れている小学校は多いそうです。
さて、レポートに入ります。
今回私の訪問させていただいた小学校は
「Dr.schaepmanschool(ドクター・スハエプマンスクール)」
デン・ハーグ市にある200~300名規模の小学校です。
ここはイエナプラン教育を全面的に推進する小学校です。
イエナプランの、
以下の5つになると思います。
①自学自習が中心(教室が静か)
②循環的学習(対話→学習→遊び→催し)
④サークル対話
①自学自習が中心(教室が静か)
こちらは小学校の教室の写真です。
机は5~8人くらいのグループで配置してあり、
いわゆる日本の教室型の机の配置はありません。
私も1時間目が始まるところに立ち会いましたが、
朝の対話が終わると、先生が大きな声で指示を出さずとも、
子どもたちが各自で1時間目の自習に取り組み始めました。
教室内は静かです。
「これがイエナプランか」という衝撃を感じました。
こちらが当日の低学年クラス(4~6歳)の
電子黒板に表示されていた時間割です。
10:00 自習
10:30 おやつ(フルーツ)+外遊び
11:00 自習
12:00 休憩+外遊び
12:50 発表+プロジェクト(今回のテーマは映画)
13:45 片付け
14:00 催し(転校した子のお別れ会)
14:45 帰宅
国語、算数などの科目はありません。
自習が多いです。
ちなみにこちらは各自の子どもが持っている時間割です。
子どもそれぞれが
時間割というより進捗工程表に近いものです。
子どもたちはこれで自身の学習を管理し、
先生がその進捗を確認しています。
時にオランダで、学習=仕事と表現されることがありましたが、
まさに大人が仕事で進捗を管理するようなイメージでした。
この自分自身で自ら取り組むことを管理する考えは、
保育園でも見かけました。
かなり一般的な学校にも広がっているようです。
②循環型学習(対話→学習→遊び→催し)
先ほどの時間割にあるように、
イエナプランではいわゆる科目による時間割でなく、
循環型のカリキュラムで構成しています。
こちらは中学年(7~9歳)の時間割です。(写真が見にくくて申し訳ありません)
9:00 自習
10:30 おやつ(フルーツ)
10:40 外遊び
11:00 自習
12:00 外遊び
12:30 ランチ
12:45 算数、アルファベット
13:00 読書
13:30 催し(何が始まるかな?)
14:30 片付け・帰宅
先ほどの低学年と似ています。
イエナプランでは、
「対話→学習→遊び→催し」
というサイクルを繰り返すそうです。
もちろん学習の中に、国語や算数などの要素は含まれます。
テキストもあります。
「対話→学習→遊び→催し」
これらすべてが学びだと考えられているわけです。
ちなみに催しでは、
積極的にみんなのお祝いをするそうです。
外遊びの様子はこんな感じ。
寒い中でも、外で元気に遊ぶ姿は万国共通。
見ていて嬉しくなる光景でした。
③異年齢学習
日本でも縦割り学習などの事例はありますが、
イエナプランの異年齢学習はもっと本格的です。
先ほど紹介した5~8人のグループですが、
このグループは異年齢で構成されています。
グループの机を見てみると、
高さが違います。
これが異年齢学習を象徴しています。
この小学校では4~12歳児までを3学年ごとに分けています。
3学年ずつ低学年~中学年~高学年のクラスを
編成しています。
高学年クラスには10~12歳がいるわけです。
日本のように「6年1組」などはなく、
3学年の異年齢が混ざり合ったクラスには
みんなで決めた名前がついています
「魚」「パンダ」「鳥」などのグループ名がついていました。
そして教室の中でも、異年齢で机を並べるわけです。
これでは当然ですが、一斉授業は出来ません。
各自が自習を中心に取り組み、
分からないところは教え合う風土が自然に出来ていきます。
「本当に出来るのか?」と思って見ていましたが、
これがいかにも自然に進行していました。
「やれば出来るもんだな」と感心しました。
④サークル対話
イエナプランの教室では、
必ずサークール椅子のコーナーがありました。
このように丸太のような椅子が多かったです。
丸太には子どもの名前がありました。
色々な子の名前が書かれた丸太が代々受け継がれている感じでした。
1日の中で何度となく、
朝の対話、
授業中、
帰り、
「何かあれば対話する」という雰囲気でした。
もちろん異学年で話し合うわけです。
このように教室が
自然にさっと集まれる配置になっていることも大事だな、
と思いました。
⑤ワールドオリエンテーション
こちらは、教科横断の学習です。
日本で言うところの総合学習に近いと思います。
「子ども自身の発見や観察、探究を尊重し、生徒同士の相互作用を引き出す」
と聞きました。
テーマは学校全体で統一され、年間に7~8テーマあるようです。
私が訪れた際のテーマは「映画」でした。
学校内の各所には、
そんなわけで映画のポスターがたくさん貼ってありました。
学習の中で、インターネットで映画を検索したり、
実際に映画を見ている子もいました。
遊んでいるのかな?と思ったら、
これも1つの学習でした。
全員共通のフォームで映画の感想を書いていました。
低学年クラスでは着ぐるみがあって、実際に劇をしていたり。
ワールドオリエンテーションは、
テーマを決めると同時に、
先生方の上手な導きがあるように感じました。
子どもに全て任せているわけではありません。
このあたりの「総合学習のノウハウ」は
オランダではとても発展している、という話を伺いました。
日本でも総合学習は
「ゆとり教育」の産物のように言われて
悪者扱いされることがありますが、
もっとみんなで研究して、
日本もレベルアップしていきたい科目だと感じました。
(まとめ)
「子どもたちの成長目標はどんなことですか?」
私はこの小学校の校長先生に尋ねました。
2つあげてくださいました。
1.自分が何者か、何に強くて何が弱いかを分かっていること
2.問題が起きた時にイニシアチブをとってみんなで関わって解決すること
少し解説します。
1.自分が何者か、何に強くて何が弱いかを分かっていること
こちらは、「ポートフォリオ」と呼ばれるものです。
子ども1人に1冊あります。
子どもたちがそれぞれ自分がよく出来たと思う、
教材や絵などを保存しています。
これにより子ども自身が自分の成長を確認しているのです。
もちろん親にも共有されます。
よく見ると、印がついて子どもがコメントを残しています。
(下の写真のピンクのマーカー)
これはお聞きすると、
「どの能力が伸びたか?」ということについて
子どもが考えているそうです。
能力の分類は、
「マルチプルインテリジェンス」の考え方が
ベースになっているそうです。
(参考:マルチプルインテリジェンス)
1983年にハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱。
人間の8つの能力を分類。
- 言語的知能
- 数学的・論理的知能
- 空間的・視覚的知能
- 身体的・運動的知能
- リズム・音楽的知能
- 対人関係の知能
- 内観の知能
- 自然・環境の知能
子どもたちはこの分類に印をつけているのです。
ポートフォリオを見せていただくと、
こちらは保護者との三者面談の招待状だそうです。
三者面談も主役は子どもです。
招待状の下半分の空欄のところに記載するのは、
「三者面談で何を話し合いたいか?」です。
これを
子ども、親、先生、それぞれが記入し、
話し合いを行います。
子どもも書くのが、イエナプランらしい点です。
このような仕組みでいつも子どもの成長を
自分も周りも確認し、
子どもが主体的に自分のことを把握し、
伸ばしていくことを目指しています。
2.問題が起きた時に自らイニシアチブをとってみんなで解決すること
こちらも全体を通して貫かれている考えだと感じました。
サークル対話で話しう合う姿勢、
何かと言えばみんなで集まって討議しながら解決をしていく。
教師はファシリテーターの立場です。
イエナプランの小学校を卒業した子は
中学以降も、
「非常に積極的に学校に関わる」
「問題解決のイニシアチブをとる」
との評価が高いそうです。
短期間見ただけでも
十分に納得できる過ごし方をしていました。
校長先生は、もうひとつ私に印象的な言葉を語ってくれました。
「将来、子どもたちが出てゆく社会はどんな風だかわからない。
きっと今存在しない職業につく子も多くいるだろう。
だから私たちは子どもたちが『学ぶことを学べる』環境を用意している」
確かな理念に基づく目的と手段、
これを私はイエナプランの現場で体感いたしました。
「小学校で教科教育に偏らず、
全人格教育をしっかりと施し、
学ぶための土台を作った上で、
中等教育以降で
実際の社会で使うための学問を自ら獲得していく」
このようなオランダのシステム、
日本でも参考にしたいと思います。
報告者:平岩 国泰
*学校とのお約束で、子どもの表情などが写っている写真は掲載しておりません。
報告会の場では、もう少し詳細な写真や映像をご参考までにご用意いたします。
どうぞよろしくお願いたします。