S君は、入学した頃から、先生のことが大好きな男の子です。
1年生は、先生と遊びたがる子が多く、最初は先生の取り合いです。でも時間の経過とともに、上手に友達と遊ぶようになってきます。S君のことも、きっといずれ仲良しの友達ができるだろうと思っていました。
しかし、夏休みがやってきても、相変わらずS君は先生たちと遊ぶことを好んでいました。「先生、いつもありがとう」とお手紙をくれたりするような、心優しいS君。それなのに、なかなか友達と遊ぼうとしないのです。時々誰かに誘われて遊ぶことはありましたが、自分から誘うことはありませんでした。
S君は、少しずつイライラすることも多くなってきました。嫌なことがあると、周りの子のせいにする様子も見られたので、ある時、尋ねてみました。
「そんなことしたら、他の子がS君と遊びたくないって思ってしまうかもしれないよ?いいの?」
するとS君はきっぱりと、「お友達なんて、いらないよ。」と答えました。
「お友達がいなくても、先生やパパ、ママと遊ぶからいいんだよ」と言ったのです。
S君に友達のいる楽しさを知ってほしい。スタッフみんなでそう思っていました。
2年生の夏も終わろうとした頃、S君は突然に一人である行動を開始しました。大人数で大規模おにごっこをするために、S君はせっせと仲間を集め始めたのです。
「ねえ、一緒にやろうよ。」「○○さんは、この係をやってね。」
気づけば、参加者のリストは名前でいっぱいになっていました。
「お友達なんて、いらないよ」とあの日言っていたS君は、今、友達をたくさん集めています。冬休みに、一緒に遊ぶために。
最近また「お友達なんて、いらないよ。」と話している声が聞こえました。
そうか、S君はまだ認識していないのかもしれません。「友達」は、いつの間にか周りにいて、一緒に遊んだり笑ったりできる存在だということに。きっと、それに気づくまでもう少し。ゆっくりゆっくり見守っていこうと思います。